熊本「アサリ偽装問題」が報道よりずっと深刻な訳 どの産地でも起こりうる!知られざる問題の本質

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さらに問うと、アサリの畜養には3センチほどに育った「成貝」を持ってくる。その大きさになるまでには、海域によって育ちも違うが、だいたい2~3歳、早ければ1~2歳のものになる。それと同じ期間以上、国内で育てることはまずなく、畜養=出荷調整の「仮置き」にすぎないという。

輸入したアサリを一気に出荷してしまうと、値崩れを起こすこともある。畜養の目的は、生きたままアサリを出荷する調整のため、短期間だけ干潟に放して“保管”する、いわば倉庫の代わりなのだ。

従って、担当者はこう断言する。

「畜養では『熊本県産』と書けないと、県として認識している」

だから2020年のアサリの漁獲量21トンはすべて「天然物」であって、農水省が公表した昨年10月から12月までの推定販売数量とはあまりにかけ離れている。しかも“長期の畜養”が存在しないだけに、なおさら熊本県では「畜養の状況を把握するため、現在調査中」という。あるはずのないことが起きているのだ。

事の本質は熊本県に限った話ではない

「畜養で○○県産とは書けない」という認識は、熊本県に限ったことではない。全国一律で共通することだ。だからこそ、サンプルのDNA分析で97%も外国産が見つかったことは、衝撃的で大問題なのだ。つまり、97%の割合で消費者が騙されていたことになる。しかも、これからも、どこの産地でも起こりうる、食の安全・安心を根底から裏切る行為なのだ。

どうやら、農水省の担当部署も現場の状況をわかっていないらしい。まして、報道が食品表示法の生育歴の長いところを産地表示する、いわば「長いところルール」を書き立てたところで、アサリにはまったく当てはまらない。国内では長期の畜養がないからだ。

もはやこれは大規模な食品偽装事件と呼ばざるをえない。それだけに名前を使われた熊本県にとって大迷惑なだけでなく、輸入品の偽装表示は日本の食料安全保障の根幹を破壊しかねない重大事案である。くだくだと畜養と食品表示法上のまったく的外れな論点を書き連ねて、消費者を誤導する報道の責任も大きいだろう。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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