トンガへの人道支援から見る地政学的状況と日本 PIF分裂問題と太平洋諸島の地域秩序の変容

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2010年代になると、オセアニア地域の地域統合の動きを推進する動きが高まっていく。2015年には、それまでのパシフィックプランを改訂する形で、PIFを中核にした地域の政治・経済の統合を進める「パシフィック・リージョナリズム」という共同体構想が掲げられた。

この構想をもとに、加盟国内で統合に向けたロードマップが示され、共同体の具体化に向け各国政府が積極的に行動することが求められるようになった。この過程で大きな役割を果たしたのが、PIF事務局である。PIFの常設機関として当初は裏方の存在であったが、各加盟国政府と比しても充実した官僚組織であり、国連などでもカウンターパートとして各国に代わり協議を行うなど、国際社会の中でその存在感を高めていく。

サブリージョナルグループの台頭

一方、PIF事務局の強大化に呼応する形で台頭してきたのが、太平洋諸島内のサブリージョナルグループである。それまで地理学上の便宜的な分類であったメラネシア・ポリネシア・ミクロネシアという区分ごとに首脳たちが集まり協議し、PIF内での協議で共同歩調をとるようになっていく。

とりわけ各グループ間で考え方の違いが明確にみられるのが地域統合への対応である。すなわち豪州・ニュージーランドに多くの移民を送り出し、両国と関わりの深いポリネシア諸国は地域統合・地域共同体の促進に前向きであるのに対し、国土・人口・資源を豊富に有し、自らのグループだけで経済統合を進めたいと考えるメラネシアや、アメリカなどPIF域外の国々との関係が深く、地域統合には積極的ではないミクロネシア地域とでは、PIFとの関わり方でも大きな差が出てきている。

今日問題となっているミクロネシア諸国のPIFからの離脱問題も、地域統合に消極的な姿勢がみられるミクロネシア出身の事務局長が誕生することに疑念を持つポリネシア諸国と、これまで南半球の諸国主導で議論が進められ、自分たちの存在が軽んじられてきたと考えるミクロネシア諸国との間にある、相手のグループに対して抱く不信感によるところが大きいだろう。

このようなサブリージョナルグループ間の対立構造を生み出した要因として、パシフィックプランの採択以降、PIFを軸とした地域の統合を推し進めた豪州・ニュージーランド両国が、PIF加盟島嶼国間の調停役としての役割を十分に果たせていないことがある。国際社会が両国に本来期待しているのは、オセアニアの安定である。環太平洋地域の中核としてその存在をアピールすることも大切であるが、まずは足元に潜んでいる地域間の意見の相違を把握し、不和が生じさせないように対処することが必要なのではないか。

両国が十分に機能していない状況もあってか、この間アメリカや英国、フランスなどの旧宗主国が再びこの地域への直接関与を強めてきた。これらの国々の念頭にあるのは、中国が海洋進出を強化することに対する懸念である。

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