トンガへの人道支援から見る地政学的状況と日本 PIF分裂問題と太平洋諸島の地域秩序の変容
本稿では、同書で太平洋島嶼国について執筆した黒崎岳大氏が、火山噴火で復旧に追われるトンガと同地域、さらに今後の日本との関わりについて論じる。
トンガの噴火をめぐる国際社会・日本の動き
1月15日、トンガ沖のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山が噴火した。衛星画像でもはっきりと映し出されるほどの噴煙が上空20キロにまで達した。その衝撃は、周辺の太平洋諸島はもちろん、日本にまで津波が押し寄せてくるほど大きなものであった。ユニセフによると、人口の80%以上が火山噴火と津波の影響を受けたと報告している。
現地からの情報が届くようになると、火山灰に覆われた建物や滑走路の映像が映し出され、住民は火山灰の影響で安全な飲料水が利用できず、人命にかかわる緊急事態が差し迫っている模様が伝えられた。こうした声に応えるように、各国からの緊急支援が開始され、日本国内でもトンガへの支援に向けてさまざまな活動が始められている。
国際社会を挙げてトンガの復興を支援していく動きが高まる一方、トンガを含めたオセアニアの国・地域で構成されている地域協力機構・太平洋諸島フォーラム(PIF)は、分裂の危機を迎えている。
昨年2月にPIF事務局長人事をめぐり、ミクロネシア5カ国(パラオ・ミクロネシア連邦・マーシャル諸島・ナウル・キリバス)が、自分たちが不当な扱いを受けているとして離脱を表明した。これは地域を代表する国際機関として存在感を高めてきていたPIFにとっては、加盟国の3分の1近くが一度に離脱することになり、地域協力の枠組自体の崩壊につながりかねない事態として、加盟国はもちろん、PIFに関わる周辺諸国の間でも大きな動揺を与えた。
具体的な協議も進まぬまま、離脱へのタイムリミットが迫る本年2月11日、ミクロネシア5か国によるオンラインでの首脳会合が開催され、6月までにPIFより5か国に対して提示される改革案の内容確認するまで、離脱の手続きを一時停止することを発表した。今回離脱を先送りする発表で、残留を望んでいた国々やPIF事務局もひとまず安堵の息をついた。しかしながら、離脱が完全に撤回されたわけではなく、提示される改革案をミクロネシア5か国が不十分と判断したときには、再び離脱へと進んでいく状況は続いている。
太平洋諸島は、国際政治の舞台においてこれまで注目される機会はほとんどなかった。しかしながら、近年気候変動問題や漁業資源などの海洋をめぐる問題の最前線として認識されるようになり、21世紀におけるグローバル課題のホットスポットとなりつつある。こうした中で、日本は太平洋島嶼国に対し、各国の建国時よりインフラ部門をはじめ積極な経済支援を実施してきたこともあり、各国から重要なパートナーとして認識されてきた。
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