トンガへの人道支援から見る地政学的状況と日本 PIF分裂問題と太平洋諸島の地域秩序の変容

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実際、中国は2000年代中盤以降、この地域での経済支援を強化してきた。2019年にはそれまで台湾と国交を締結していたソロモン諸島・キリバスの両国と外交関係を結び、ビジネス面を含め関係を強化している。しかしながら、この中国の動きを地域の支配を目指しての攻勢として認識するのは安易すぎるように思われる。むしろ、豪州・ニュージーランド両国が自らの足元で起きている動きを十分把握しきれていないという、太平洋諸島外交の失敗を露呈したものと考えるほうが適切であるようだ。

トンガの復興支援をめぐる日本の役割

ミクロネシア諸国のPIF離脱をめぐる混乱が続く中、PIFを中心とした太平洋諸島の国際秩序は混沌としている。トンガの噴火・津波被害は、コロナ禍という人的交流を制限しなくてはいけない状況下で、復興のために各国の協力の下で物的・人的活動をいち早く進めていかねばならないという、一見すると相矛盾する活動を求められる極めて困難な状況にあるといえるだろう。

こうした中で、トンガをはじめ太平洋諸島から期待が向けられている国こそが日本である。日本は太平洋諸島の各国の独立以降、各国のインフラ整備支援に力を入れてきた国として、各国から評価されている。現在もトンガなどでは地方のコミュニティーベースでの井戸掘りや橋の建設など市民目線に立った草の根レベルで支援が行われている。筆者も何度もトンガを訪れているが、そのたびごとに街中で出会った見ず知らずのトンガ人から「自分の村に井戸を作ることができたのも、日本のお陰だ」と何度も握手された経験がある。

日本は、トンガとの間では皇室・王室レベルから市民レベルに至るまでこれまで幅広い友好関係を築き上げてきた。2019年のラグビーワールドカップでは、トンガ出身の選手たちが日本代表としてベスト8入りに貢献したことを覚えている人も多いだろう。現在も多くのトンガからの留学生が日本の高校や大学に進学し、勉学やスポーツに励んでいる。

日・トンガ両国はともに環太平洋造山帯に国土を有しており、地震や津波など自然災害の被害を受けてきた。ドイツの国際NGOが発表した2021年版の国別災害リスクでは、トンガは3位、日本も17位と上位に位置付けられている。そのため両国とも災害に対する危機意識が強く、他国の被災者の痛みを共感する気持ちも持っている。

2011年の東日本大震災では小国であるトンガから1000万円近い義援金が届けられた。今般日本国内でトンガへの支援の動きが活発化しているのも同じ災害国からくる国民性に起因するものかもしれない。被災後すぐに緊急支援を表明し、動き出した日本政府の今回の取り組みも大いに評価すべきであろう。コロナ禍における災害からの復興支援は極めて難しいミッションである。しかしそれを官民挙げて協働し、成し遂げられるのが日本の強みである。今回の復興支援は「西太平洋連合」における日本のあり方を示せる絶好の機会となるはずだ。

黒崎 岳大 東海大学専任講師

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くろさき たけひろ / Takehiro Kurosaki

早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。早稲田大学文学部助手、在マーシャル日本国大使館専門調査員、外務省アジア大洋州局事務官等を歴任後、2010年から現職。専門領域は太平洋島嶼国の政治・経済学、文化人類学。著書に『マーシャル諸島の政治史 米軍基地・ビキニ環礁核実験・自由連合協定』(明石書店)、『太平洋島嶼地域における国際秩序の変容と再構築』(共著、JETROアジア経済研究所)などがある。

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