北京五輪で選手たちを怯えさせる「絶対タブー」 発言の何が許されて、何が許されないのか
五棵松スポーツセンターでの質問内容は、女子ホッケーに関するものから、オリンピックでの政治的発言に関するものへと危険な方向に進んでいった。アメリカ代表として4度目のオリンピック出場を前に調整を終えようとしていたヒラリー・ナイト選手は、一瞬ためらい、あたりを見回しながら、慎重に言葉を選んでこう言った。
「自分が大切だと考えていることに価値を置くことは重要だと思うし、それは私にとっても重要なことだ」。ナイト選手はそう切り出すと、急激に話題を変えて、自身が最優先しているのはアメリカチームとしての初戦だと述べた。「今、私たちはフィンランド戦に集中している」。
中国の人権侵害が影を落とす北京冬季オリンピックで、近年のどのオリンピックよりも大きな焦点となっているのが、選手たちの発言の何が許されて、何が許されないのか、という問題だ。
首根っこを押さえられた選手たち
選手たちは、その知名度を利用して発言することを求める人権団体と、何をどこで発言するかを制限する国際オリンピック委員会(IOC)のルールとの間で板挟みになっている。
さらに中国共産党は、選手にはオリンピックのルールだけでなく、中国の法律に反する言動を取った場合も処罰の対象になると警告している。この警告は、外部と遮断されたオリンピックの「バブル」の内外で反対意見を封じるものだとして批判を巻き起こした。
「選手は自らの発言に責任を持たなくてはならない」。北京冬季オリンピック組織委員会の委員長で、オリンピック金メダリストでもある楊揚氏は2月頭の記者会見でそう述べた。
こうした中国の警告は、アメリカの国務省など国外から批判の対象となったが、オリンピック関係者はこれまでのところ「注意深い自己検閲」で応じている。