北京五輪で選手たちを怯えさせる「絶対タブー」 発言の何が許されて、何が許されないのか

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2021年夏の東京オリンピックも含め、政治的な言動は多くの国際スポーツイベントで表面化している。とはいえ、中国ほど厳しく政治的な反対意見を取り締まっている開催国はない。

中国共産党は香港やチベットの政治的自由を圧殺し、北西部の新疆地区ではウイグル族のイスラム教徒を大量に拘束して「再教育施設」に収容。ウイグル問題はアメリカ政府などから「ジェノサイド(民族浄化)」に認定されている。

中国に批判的な人々は、選手やスポンサー企業に声を上げるよう求めており、開会式を欠席するといった無言の抗議を行うよう促す声も聞かれる。

「オリンピック選手には、あらゆる機会をとらえて国際的に認められた言論の自由の権利を行使し、今も続いている中国共産党によるウイグル族イスラム教徒の民族浄化に対して声を上げるよう求める」。イスラム教徒によるアメリカの市民団体「アメリカのイスラム関係評議会」は声明で、そう述べた。

同団体が引き合いに出すのは、86年前にアドルフ・ヒトラー政権下のドイツで開かれた夏のオリンピックだ。「残忍な独裁者が人道に対する罪を隠すために利用したのが1936年のオリンピックだった。国際社会は、これと同じことが繰り返されるのを阻止しなくてはならない」。

しかし現実には、オリンピック選手が抗議を行うことはめったにない。これは人権問題に心を痛めている選手たちの間でも変わらない。ほとんどの選手は、競技に集中しているからだ。

ヨーロッパのアスリートが批判するIOCの欺瞞

IOCが昨年行った調査によると、選手のおよそ3人に2人は表彰台で政治的な言動をとるのは「適切ではない」と考えており、開会式や競技中の抗議行動に反対する選手はさらに多い。

ヨーロッパのエリート選手2万5000人を代表するという連盟「EUアスリーツ」はこの調査を批判し、オリンピック憲章第50条は「選手の人権と両立しない」と述べた。同連盟は「スポーツ組織が選手の人権を制限したり再定義したりできるという考えは、到底受け入れられるものではない」としている。

北京冬季オリンピックの主催者は、言論の自由を認めるオリンピック憲章の精神を尊重すると約束し、組織委員会の揚委員長は「選手は(記者会見やインタビューで)自由に意見表明できる」と語った。

だが、これまでのところ、ほとんどの選手は自由に意見表明したがっているようには見えない。

(執筆:Steven Lee Myers記者、Alan Blinder記者)
(C)2022 The New York Times News Services

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