北京五輪の陰で「東京五輪レガシー」の不安な将来 「後利用が困難」と見られる海の森水上競技場は今

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「2019年6月に開業記念レガッタのイベントを実施したときには5000人近い来場がありました。その後の体験会に参加された方もいらっしゃいましたが、みなさん一様に『東京ゲートブリッジが間近で本当に景色がいい』『気分が爽快』『楽しい気分になれた』とポジティブな感想を口にされていました。

内部を取材された報道陣の中にも『施設内に入る前のマイナスイメージがなくなり、期待に変わりました』と話された方がいました。それ以外にも無観客ライブやドラマ撮影に利用していただきましたが、好評をいただいた。『いろんなことができる施設』だと認知していただくことがやはり第一なんです。4月29日の再開業は大型連休中なので、いろんな方に楽しんでいただける仕掛けや工夫を考えていきます」と安達氏も今後への期待と意欲を口にしていた。

観客席全体に屋根がなく熱中症の心配も

しかしながら、観客席全体に屋根がなく、猛暑の真夏に使い勝手が悪いなど、不安視される点は他にもある。これに関しては、2016年8月の小池百合子現知事就任を機に費用削減の話が浮上。VIP席側半分に設置する形で落ち着いたものの、利用者側の視点に立った対応だったかといえば、疑問符がつく。

東京五輪本番では熱中症問題がクローズアップされることはなかったものの、今後は大いに気がかりだ。仮に屋根の追加工事が必須となり、追加投資がなされるとしたら、都民からの反発は必至。そうならないように課題を克服し、「東京都民に愛される場所」になるような努力が求められてくる。

「負のレガシー化」の恐れがあると目される同施設が長く存続していくためには、1つひとつの課題をクリアし、多くの人が気軽に集まれるような環境を作ることが肝要だ。長野のスパイラルのような未来だけは絶対に回避しなければならない。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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