北京五輪の陰で「東京五輪レガシー」の不安な将来 「後利用が困難」と見られる海の森水上競技場は今
有明アリーナ以上に厳しいと目されるのが、海の森水上競技場だ。総工費308億円をかけて2019年夏に完成した同施設は、中央防波堤外側埋立処分場などの産業廃棄物処理場やごみ処理場が近接する東京湾エリアの遠隔地にある。もちろん周辺に人は住んでいないし、買い物できるところも少し離れたところにコンビニがある程度。普段はめったに一般の人が近寄らない土地というしかない。
「人が行かないエリア」イメージ払拭できるか
実は五輪期間中の昨年7月28日昼、筆者はボート女子軽量級ダブルスカルの大石綾美(アイリスオーヤマ)・冨田千愛(関西電力)ペアのレース実施時間を見計らって、施設全体が一望できる東京港臨海道路の側道側に足を運んでみた。そこには、実業団のボート選手、埼玉から訪れた熱心な五輪ファン、外国人ボート愛好家など数人がたたずんでいた。
彼らは車やバイク、タクシーで来ていたが、当日は警察の警備が厳しく、「車両を移動してください」と注意され、すぐに立ち去らなけばいけなくなるという苦い思いをした。いずれにしても、自前で交通手段を確保できない限り、たどり着けない場所というのは紛れもない事実だ。
現時点での最寄りのバス停は「環境局中防合同庁舎前」で徒歩20分という遠さ。今年4月29日の再開業以降は新たなバス停ができ、ある程度の運行本数が確保されるというが、具体的なイメージはまだ湧きづらい。
大規模イベント時はシャトルバスを走らせるしかないが、東京五輪開催時に計画されていたりんかい線・東京テレポート駅からの観客輸送が実現できず、大がかりなテストを行えずに終わったのも、先々に向けてのマイナスと言っていい。
「海の森の再開業後はバスか車で来ていただくのを想定していて、数百台の駐車場スペースを確保する予定です。今はどのエリアにするかを検討している段階です。今後は『行きづらい場所』という心理的マイナス面を減らすような取り組みが求められてきます。この場所は『海の森公園』の一部ということで、航空写真撮影やオートキャンプで訪れる方は以前からおられます。楽しめるエリアだというアピールに力を入れることも重要でしょう」と、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の担当課長・安達紀子氏は言う。
「人が行かないエリア」というイメージの払拭は、稼働率向上への一歩として肝心だ。
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