コロナ保険に入るか迷う人に知ってほしい3論点 期待値で考えず万一に備えるのが加入判断の本質

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「3万円の自動車保険に加入すると0.005%の確率で交通事故を起こしてしまった場合に2億円の賠償金が保険でカバーされる。でも確率の期待値は1万円なので大半の人は損をする」

これが保険です。そして、

「バレンタインジャンボ宝くじを買うと、0.00001%の確率で1等2億円が当たる。でも3000円で10枚つづりを購入しても確率期待値は1500円以下なので大半の人は損をする」

【2022年2月1日14時40分追記】上記説明の正確性を期すために初出時から一部表現を見直しました。

これが宝くじ。こうして比べてみると金融商品としては同じようなメカニズムであることがよくわかります。

宝くじを買っても損をするというのは経験則としては自動車保険と同じくらい正しくて、私の場合は10枚つづりを3000円で購入しても毎回当たるのは300円1本だけです。確率計算的に損をすることが明白なこの宝くじをなぜ私たちは買うのでしょうか?

「万が一」の時のために

それは保険と同じで「万が一」を買っているのです。

生活が安定したサラリーマンはコロナ保険に入る必要がないことを先ほど説明しましたが、それと同じ論理で宝くじを買う必要がない人は「3億円はいずれ稼げる人」です。

読者の皆さんの中で年収1億円の方は3年仕事をすれば3億円稼げます。だったら確率期待値で損をするとわかっているのに3000円の宝くじを買う必要は一切ありません。

しかしそうではない読者は「万が一」のときのために宝くじを買う意味は十分にあります。もし当たってしまったら自分では到底稼げないかもしれない3億円が手に入る。たぶん外れるけどそれで失う3000円は痛くはない。そういう場合は宝くじを買う経済的な意味は保険と同じで「アリ」なのです。

難しい説明を一文だけ入れさせていただくと、保険も宝くじも実は経済理論でいうボラティリティーを販売している商品なのです。万が一のケースはほとんど起きないけど、万が一のときの金額が莫大だというのがボラティリティーの意味するところです。もうちょっとわかりやすく言えば保険はリスクを売り、宝くじはチャンスを売っているわけで、それを経済理論では同じ「ボラティリティー」という言葉で説明すると言い換えるとよりわかりやすいかもしれません。

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ということで今回の記事の結論は、コロナにかかると仕事がなくなって生活に支障が出る人はコロナ保険に入るべきだし、コロナ保険に入りたいと思われた読者の方はバレンタインジャンボ宝くじも買っておいたほうが「経済理論的にはそれでいいのだ」という話でした。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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