ミャンマーのクーデターで機能不全に陥るASEAN カンボジアとシンガポールが今後のカギを握るが……

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お手本は2014年にクーデターで民選政府をつぶしたタイだ。首謀者のプラユット陸軍司令官は、その年のASEAN首脳会議に「首相」として出席していたし、ASEANが特使を派遣したり、反対派との対話を求めたりすることもなかったからだ。

それ以上の誤算は、予想を超える国民の抵抗の強さであろう。2011年の民政移管後、選挙と民主主義、自由な空気を味わった国民の軍政に対する拒否感は、それまでの半世紀近くを暴力で支配してきた国軍には想像できなかったはずだ。

決定的な役割を果たしたのはフェイスブックやツイッターなどのSNSである。2007年のサフラン革命ではビデオジャーナリストが軍の監視をかいくぐって苛烈な弾圧を映像で伝えたが、今回の情報量はその時の比ではない。民主化を求める人たちが連帯の情報を共有するとともに、国軍の残虐さが動画で瞬時に世界に伝わった。過去半世紀にわたる国軍の民主派勢力弾圧は一貫して残忍だったが、今回はその暴力がまざまざと可視化された。

国軍の無法ぶりに振り回される加盟国

ASEAN主要国の政権の側で、民主主義や人権に対する意識が高まった形跡はない。動画で拡散される国軍の無法ぶりを前に、主要国の政府も仲間内の「なあなあ」ではもはや済まされない状況に追い込まれている。同時に「憲章」を掲げながらも、加盟国の法外な人権侵害を止められないASEANの無力も浮き彫りにされている。憲章には加盟国への制裁や追放の規定はない。

東西冷戦とベトナム戦争を背景に、近隣の国々が「反共同盟」として集ったASEANは、55年の歴史のなかで経済発展をとげ、さらに東アジアサミットをはじめ域外の大国をも巻き込む会議を主宰することで存在感を高めてきた。しかしコロナ禍で経済は停滞し、主宰する会議もオンラインとなって大国の首脳が立ち寄る機会も失われた。そこにきてミャンマー国軍の暴挙に対し有効な手立てがない状況は、機構としての存在意義に疑問符を突き付けている。

八方ふさがりのなかでクーデターから1年を迎えたミャンマーはどうなるのか。

外資の引き上げや欧米の制裁の影響で通貨チャットは下落し、インフレが加速して国民生活は苦しさを増す。通信や電気などのインフラも不安定化している。一方の国軍は、国際社会から集中砲火を浴び、国民の抵抗が止む気配がないものの、過去にも長年にわたる経済制裁下で生き延びてきた耐性がある。ASEANも含めた国際的な孤立には慣れている。中国との翡翠取引などを握る国軍系の企業からの上りで軍幹部は生活に困る様子もない。

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