社会保障の「不都合な真実」 子育て・医療・年金を経済学で考える 鈴木亘著 ~社会保障の拡大は成長戦略たりえずと主張
評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト
社会保障制度改革が喫緊の課題であることは、多くの人が認めるところであろう。特に若年世代にとり、年金や医療制度の持続可能性低下が将来不安の原因になっているだけでなく、都市部においては保育所の圧倒的不足から就業が困難になるという切実な問題も生じている。
本書は、子育てや貧困問題、年金、医療など多くのトピックスを取り上げ、経済学的視点から、社会保障制度問題を平易に論じたものである。
多くの制度に共通するのは、人口や経済の伸びが高かった時代に形成され、低成長時代になっても既得権者の利益を擁護したため効率の悪い制度となり、世代間不公平を拡大していることだという。既得権者とは、補助金漬けの護送船団方式で守られた高コスト体質の業界団体、業界団体へ天下る官僚、給付額が負担額を大幅に上回る高齢者などにほかならない。
たとえば、保育所の待機児童問題は、規制と補助金で守られた高コスト体質の認可保育所が十分なサービスの供給を行っていないものの、補助金の存在で自己負担が少ないため過大な需要の発生していることが原因だという。解決策として参入規制の緩和と同時に、「子ども手当」のバウチャー化を提案する。評者もこの提案を政府が早急に検討すべきと考える。
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