「安倍官邸の功罪に学ぶ岸田官邸」が内包する課題 内部の結束力を高め官邸主導を機能させられるか

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以上のように、岸田政権は第2次安倍政権の官邸主導を参考にしながらも、部分的な修正を図り、各省庁や自民党との調整を重視し、その基軸として官邸を位置づけ直そうとしている。政治改革によって実現した官邸主導を維持しつつも、各省庁が「委縮」し、「忖度」しているなどという批判にも配慮し、行き過ぎとみられる箇所を是正しようとしているということである。

各省庁をうまくグリップできなければ致命傷に

問題は、このような官邸主導がうまく機能するかである。オミクロン株の世界的な感染拡大を受けて、岸田官邸は外国人の新規入国停止を迅速に決断した。その一方、日本に到着する国際線の新規予約の停止を航空会社に要請し、撤回に追い込まれたこと、また、オミクロン株の濃厚接触者の大学受験を認めないという指針に批判が集まり、見直したことは、それぞれ国土交通省と文部科学省に対する官邸のコントロールが不十分であることを示した。

コロナ対策のような危機管理については、首相官邸が迅速な判断を行うことに加え、各省庁を十分にグリップすることが求められる。それができなければ、オミクロン株による感染拡大が続くなか、夏の参院選に向けて致命傷になりかねない。

それに加えて、岸田官邸の懸念材料は内部の結束力である。第2次安倍政権の場合、2012年の自民党総裁選での逆転勝利、第1次政権の経験者による失敗の反省、安倍の人柄と保守的な思想の共有などが、発足当初から強い求心力をもたらした。『検証 安倍政権』のインタビューで、安倍氏は今後の政権が生かすべき教訓として次のように語っている。

「私を含めてみんな安定政権を作ろうと思っても、なかなかうまくいかないわけですけれども、やはり大切なのはチームプレイだと思うんです。権力というのは、崩れるときには必ず内部から崩れます。官邸においても、いかに求心力を保ち続けるかということが重要なんですね」

政権運営は一筋縄ではいかない。山あり、谷ありの連続である。第2次安倍政権も、7年8ヵ月、森友・加計学園問題などいくつもの困難に直面した。しかし、それを凌ぐことができたのは、首相官邸を中心に政府・与党を含む求心力が強いチームを維持したからであった。それに対して菅義偉内閣は、1年で退陣を余儀なくされた。岸田首相は、安倍首相の助言を生かし、チーム力を高めていくことができるであろうか。

(中北浩爾/一橋大学大学院社会学研究科教授)

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