エバーノート躍進を支える「リアルの感覚」 デジタル狂乱の中で、大事なのは「繊細さ」?

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エバーノートのアイデアを基にさらに起業したのは1997年。拠点はボストンだったが、シリコンバレーに同様のアイデアで開発をしているプログラマーらがいると知って、話し合いの後に合流。そうして、現在のエバーノートが生まれたのが2008年だ。昨今のスタートアップには、創業者らが仲間割れするという話が多いのだが、エバーノートには、当初のリービンの大学の友人らがまだかかわっているという。

現在、エバーノートは世界で1億人までユーザーを拡大した。とは言え、すべてが順調だったわけではない。リーマンショックのために期待していた投資資金が調達できず、もう会社を畳むしかないと思ったときに、危機一髪で救われたこともある。数カ月間エバーノートを使ってとても感心したと、たまたま連絡してきた北欧のユーザーが、実は投資家だったのだ。

ネガティブ発言に引っ張られない仕掛け

エバーノートがリアル世界と結び付いている側面はもうひとつある。それは、同社の収入源だ。インターネット企業には、フリーミアム(無料)モデルで製品やサービスを提供するところも多いが、エバーノートの収入はあくまでも有料版のユーザーが支払う料金。広告も入れなければ、ユーザーデータを売ったりもしない。今どき、しごく「まともな」商売と言える。

このまま成長路線を続ければ、製品もサービスも、そして社員数も拡大していくだろう。そんな局面にあって、リービンには社内で決めたルールがある。それは、ポジティブな視点から決定を下すことだ。

「物事を決める際には、とかくポジティブな点とネガティブな点を比べようとします。しかし、そうすると大体、ネガティブな方向へ引っ張られていく。意思決定にかかわる人数が多くなるほど、引っ張られる力も強くなる」とリービンは言う。

エバーノートのミーティングでは、決してネガティブな発言をせず、いい面ばかりをあげつらって、「究極的にはどんないいことが起こりそうか」をまず話し合うという。最近も、ある企業買収のテーマで話し合いをポジティブに転換したところ、「超有益な話し合いができた」と言う。結果的には、買収は行わなかったそうだ。

シリコンバレーで、リービンは最もテクノロジー企業のトップらしくない人物とされている。けれども、インターネットとデジタルの狂乱の中にあって、同氏のリアル世界の感覚が、今までにない新しいタイプのサービスを生んでいると言えるのだ。

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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