パワポは意見を押しつける「失礼な道具」?
エバーノートは先頃、マイクロソフトのパワーポイントに代わるプレゼンテーションツールを発表したのだが、そのときのリービンの説明が興味深い。
「パワーポイントは、話し合いを売り込みに変えてしまった。自分の意見を押し付けるだけの失礼な道具」。そうではなくて、「キャンプファイアでしみじみと話し合うような、そんな道具が必要。キャンプファイアとパワーポイントの間に、何か間違ったことが起こってしまっている。それを直したいのです」
デジタルな道具に、もっと繊細さを取り戻せる時代が訪れたことを思わせる見方だ。
エバーノートには通常のインターネット企業に見られない特徴もある。それは、すべてがデジタルではないという点。たとえば、ノートに手書きしたものを、そのままデジタルに取り込める仕組みがエバーノートにはある。重要だと思ったものにポストイットを張り付けると、それがそのままデジタルファイルになる機能もある。現実のリアルな世界でのメモや目印が、スルリとデジタルに変換されるという不思議な感覚は、単純なデジタル100%のサービスにはありえないことだ。
それだけではない。エバーノートはモノも販売している。エバーノートのクラウドの作業スペースに直結した小型スキャナー、中身がすぐに取り出せるかばん、急いでいる朝に片方ずつ組み合わせてしまっても、おかしく見えないソックスのシリーズ。こんなモノを売るのも、ユーザーの生活が少しでも生産的になるためを思ってのことらしい。
昨年、こうしたモノが発表されたときには首を傾げていた人も多かったが、それ以来1年間に1200万ドルもの売り上げを、このリアル世界のモノから得たのだという。
破綻寸前に“ユーザー”から救われる強運
フィル・リービンは、1972年に旧ソ連のレニングラード(現サント・ペテルスブルグ)で、音楽家の両親の元に生まれた。8歳のときに家族とアメリカへ移住。移り住んだブロンクスは、犯罪も多い危ない地域。だが、幼い頃からコンピュータに夢中だったリービンは、家の中で机にばかり向かっていたようだ。すでに高校時代には、プログラミングの仕事を請け負ったり、コンピュータの修理をしたりして収入を得ていた。
ボストン大学に進学してコンピュータ科学を専攻したものの、大学当局ともめて卒業間近に退学。そこから、大学の友人たちと会社を起こすことになる。最初の会社は、顧客企業のためにオンラインショップを構築するサービス会社。2つ目の会社はセキュリティーソフトの開発会社で、いずれも数千万ドルで他社に買収され、起業家としての次の資金を得た。
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