「ブラック」な公認会計士の仕事に未来はあるか 規制強化で中小監査法人の淘汰が迫っている

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メガバンクを筆頭に年間数十億円の監査報酬を払う企業がある一方で、上場企業でも同数千万円というところがほとんどだ。上場企業の監査には、多くの場合、複数の会計士が携わる。1人当たり1000万円はくだらない会計士の年収を考えると、ペイしているのか怪しい上場企業の監査先は少なくなさそうだ。

ある大手の監査法人で働く会計士によれば、具体的な監査報酬の額を示され、「このレベルの監査先企業は要観察。折を見て値上げを提案する」「このライン以下は監査を引き受けるな」などと言われていると証言。長期にわたって監査を担当してきた先でも、容赦なしなのだという。

反面、上場企業の側からは、不満の声も上がる。ある東証1部上場企業のトップはこう憤る。「決算発表予定日の間際になって突然、監査法人がこれまで行ってきた会計処理を問題視し、決算発表を遅らせることになった。もっと前に言う機会が何度もあったのに、なぜ発表直前なのか」。

といって、大手監査法人からの顧客「流入」は、準大手や中小監査法人にとってチャンスかと言えば、そうとも限らない。とくに所属する公認会計士の数の少ない中小監査法人には厳しい時代がやってくる。上場企業の監査を巡って、規制が強化される見込みだからだ。

金融審議会での議論を踏まえ、金融庁は2022年春にも公認会計士法の改正を目指す方針だ。議論の中では主に中小監査法人の監査の質をどう高めるかが中心課題となった。

実際、監査法人は1000人以上の会計士を抱える大手と、100人以上の準大手、100人未満の中小・個人事務所に大別される。大手が4法人、準大手が5法人しかないのに対して、中小以下は236法人もある。

40人以下の中小監査法人は大幅減?

振り返ると、東芝の不正会計で激震が走った2015年以降、金融庁が処分した監査法人はいずれも中小だった。監査先から監査報酬以外の報酬を受け取っていたり、不正会計を見て見ぬふりをしていたりなど、監査の実態は次元の低いものばかりだった。中小監査法人の質の低さは看過できない喫緊の課題と、金融庁は危機感を募らせている。

今後は法改正に加えて、各種の規制が強化される。そうなれば、会計士の数が「40人以下の事務所が上場企業の監査を担うのは事実上厳しい」(都内で個人事務所を営む会計士)との声もある。規模確保に向けた合従連衡の動きが活発化しそうだ。

1948年の公認会計士法制定以降、続いてきたのは不正と規制強化のいたちごっこだった。大企業の会計不正が明らかになると規制が追加され、それでも不正がまた起きる、さらに規制を強化して…の繰り返し。直近でも上場以前にさかのぼって、有価証券報告書を修正しなければならなくなるなど、不正会計は一向になくならない。

大手を中心にブラックと呼ばれる職場環境を改善しつつ、中小の監査の質を高めていくことができるか。業界全体が背負う課題は大きい。

『週刊東洋経済』1月22日号(1月17日発売)の特集はです。
梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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