部屋探しで「オトリ物件」が排除される驚きの未来 「不動産ID」が導入された不動産業の将来を予想

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とくに不動産管理会社は、分譲マンションや賃貸住宅だけでなく、地域のすべての建物に管理対象を広げ、建物の点検・保守データだけでなく、「不動産ID」を使って賃貸建物の空室状況、空き家情報などの都市データを蓄積。これらのデータを活用して計画的なまちづくりが進み、デジタル証券やブロックチェーン技術を使った「不動産STO(セキュリティートークンオファリング)」で不動産投資市場も拡大した。

地方自治体はスマートシティーの構築に向けて「不動産ID」と連携し、暮らしに関わる電気、通信、物流などさまざまなデータを収集・管理するためのデータ連携基盤を構築。不動産管理会社は、地域のさまざまなサービス事業者と連携して、スマートな暮らしを支えるプラットフォーマーへと進化した。

【証言4】不動産業は物件の仲介・管理を中心とした「不動産業1.0」から、開発分譲・賃貸業などの「同2.0」、不動産を活用したさまざまな事業をプロデュースできる「同3.0」、不動産事業に必要な資金調達手段として自らファンドを組成できる「同4.0」へ進化していく。これからは不動産の新しい稼ぎ方を実践できる企業が求められていくだろう。(福田和則エンジョイワークス代表取締役)

日本社会でDXが進まない原因

ここまでが、筆者が予想した「架空の物語」である。

業界関係者からはさまざまな批判が噴出することを覚悟して「不動産ID」導入後の未来を予想したのは、日本社会のDXを推進するには、それぞれの産業界が将来ビジョンに対する「共通認識」を持つ必要があると思うからだ。

「山頂なき山登り」――デジタル庁で国民向けサービスの責任者を務める村上敬亮統括官は、日本社会においてDXが進まない原因をこう表現する。

「山登りは、誰もが山頂が見えているからそこへ登ろうとする。山頂がどこにあるのかが見えないと、山の麓をウロウロするばかりで、いつまで経っても山頂には到達できない」

国交省では、約15年前から「不動産ID」を導入する検討を行ってきた。不動産業界も「不動産ID」が導入されれば何か起こるのかが薄々わかっていたから、「暗黙の抵抗」をしてきたのだろう。2019年に国交省が四半世紀ぶりに策定した「不動産業ビジョン2030」にも「不動産ID」は盛り込まれずに先送りされてきた。

国交省にとってトラウマになっているのが、2013年度に着手した「不動産総合データベース」構築が失敗に終わったことだ。アメリカの不動産情報システム「MLS」を手本に、公的機関が保有するデータを不動産データとひも付けられるようにして宅建業者が必要とする情報を簡単に収集できるようにするのが目的だったが、当時は行政機関のデジタル化がまだ進んでいなかった。

「結局、行政窓口で情報確認する必要があり、これじゃ使い物にならない」(業界関係者)とのレッテルを張られ、苦杯をなめた。しかし、今回はデジタル庁が発足し、公的機関が保有する情報のデジタル化を進め、「ベース・レジストリ」として整備される。

2019年1月のダボス会議で安倍晋三首相(当時)がこれからの経済活動の重要課題として「DFFT=Data Free Flow with Trust(信頼ある自由なデータ流通)」を提言したのを受けて、政府のデジタル市場競争本部に「Trusted Web推進協議会」を設置。信頼できる情報を、インターネットを通じて流通するための仕組みづくりも進んでいる。

ようやく不動産業の将来ビジョンを具体的に描けるデジタル環境が整ってきたわけだ。重要なのは、不動産IDを使ってユーザー・エクスペリエンス(体験)をいかに高めるかである。

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