部屋探しで「オトリ物件」が排除される驚きの未来 「不動産ID」が導入された不動産業の将来を予想

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「B様、希望物件をVR(仮想現実)でご覧になりますか? 先に資金計画の相談をしますか?」

「いま住んでいるマンションを売却して希望物件を購入する場合、保有マンションを賃貸に出して希望物件を購入、または賃貸する場合の3パターンで、住居費の月額を試算してくれないか? 保有マンションの将来価値も予測してほしい」

AI不動産は、AI査定を使って保有マンションの売却予想額や、周辺の賃料相場から賃料収入予想額を試算し、すぐに3パターンの資金計画を画面に表示した。さらにパターンごとに、Bさんの予算内で購入または賃貸できる希望物件を提案した。

Bさんは早速、Cさんや子どもたちと情報を共有し、それぞれ都合の良い時間にVR(仮想現実)でAI不動産の提案物件を見学。保有マンションは将来価値予測から売り時と判断。家族全員が気に入った交通利便性がよい郊外の戸建て中古住宅の購入を第一候補にすることを決めて、AI不動産に伝えた。

「B様、希望物件の売り主様とは直接取引を希望ですか? 物件が立地する地元情報に詳しい宅建業者を紹介しますか?」

2021年に発足したデジタル庁は、公的機関が登録・公開している土地、建物、インフラなどの基本データをデジタル化し「ベース・レジストリ」を整備した。それらと「不動産ID」が連携することで、宅建士が丸1日がかりで作成してきた「重要事項説明書」も簡単に自動作成できるようになった。売り主が瑕疵保険を利用し、買い主がインスペクション(建物検査)を行えば、売り主と買い主との直接取引も安心して行えるようになった。

【証言3】不動産IDは、既存の産業の生産性向上ばかりに目がいっているが、新しい市場を作る、さらには社会課題と向き合うことの効果を理解することが重要。今後、人口減少が進み、地方での不動産取引が減れば、宅建業者がいない空白地帯が増えていく。地方の空き家などは仲介手数料も得られないので都市部の宅建業者も手を出さない。不動産IDを利用して安全・安心な直接取引の仕組みをつくる、新しい産業を育成する必要があるだろう。(清水千弘・日本大学教授兼東京大学特任教授)

不動産仲介サービスだけを提供する宅建業者は淘汰?

「希望物件が立地する地域はよく知らないから、コミュニティー情報に詳しい宅建業者を紹介してほしい。エリアの病院や教育環境も知りたいし……」

「B様、宅建業者は自治体OBや元校長先生などが在籍し、地域コミュニティーを良く知るD不動産はいかがですか? ほかに古民家を改造した地域コミュニティー拠点を運営しているEホーム、定期点検による定額建物修繕サービスを提供するF建物管理もお勧めです」

「AI不動産」の普及に伴い、物件売却は不動産データバンクに登録して自ら行う売り主が増えた。それによって、不動産仲介サービスだけを提供する宅建業者は淘汰され、さまざまな付加価値サービスを提供する企業が成長していた。

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