岸田首相は「資本主義の本質」をわかっていない 「新自由主義からの脱却」は完全なピント外れだ

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そして、「新自由主義の拡がりとともに資本主義のグローバル化が進むに伴い、弊害も顕著になってきました」と述べて、気候変動の原因と考えられる自然環境への負荷、さらに経済的格差の拡大、短期利益指向の企業経営が経済のレジリエンス(強靱性)を損なったことなどの問題を指摘する。

岸田氏は、これらの問題に対して、「成長と分配の好循環」を作りつつ、「人への投資」「官民連携」「スタートアップの支援」「官民での投資の実現」「デジタル田園都市国家構想」「気候変動への対応」「若者・子育て世代の所得引き上げ」などに対応すると語っている。

「新自由主義」は過剰なのか、不足なのか

総理大臣だから、あれこれ細かな話にも言及しなければならなかったのだろうが、議論の大筋に話を絞ろう。

まず、市場の活用と外部不経済のバランスに問題の構造を絞った点は、経済の議論として納得的だ。岸田氏の側近には、経済学用語に詳しい人がいるのだろう。ただし、岸田論文では「新自由主義」の何が問題で、どう修正したいのかがよくわからない。

今度は、「新自由主義」という言葉を使ってみたかっただけではないのだろうか。実は、筆者の密かな観察によると、日本経済を論じる際に「新自由主義」という言葉を使う人の議論はほとんど的外れだ。資本主義システムが、福祉国家、新自由主義と流行を変えてきたという、経済学説史的知識に頼って、それらしく議論をしているつもりなのだろうが、日本が新自由主義の段階に達したことなど一度もないからだ。

日本の経済が残念な状況にあることの根源には、資本主義的というよりはむしろ縁故主義的な社会・経済運営の閉塞性があり、その結果、成長が乏しく、企業の従業員への支払いが貧乏くさく、社会のセーフティーネットが貧弱であることに問題が波及している。

「福祉」を企業の負担にすることは非効率的だ。ちなみに、岸田論文によると、国民総所得に対する雇用者報酬はアメリカが52.8%(2019年)で、日本は50.5%だ。何と、日本のほうが低いのだ。

例えば、生産のグローバル化を進めすぎて生産プロセスがレジリエンスを弱体化させたことは、市場や資本の論理が悪いのではなくて、企業がリスクに正しく気づかなかっただけだ。これを素早く修正できるのは、政府ではなく、企業の側だろう。

脱炭素など環境問題に対処する方法で有効なのは、炭素税や排出権取引の仕組みを早急に作って、環境の費用を「市場」に取り込むことだろう。資本主義をやめて、非効率的な熟議に時間を費やす耐乏生活をすることが解決方法ではない。加えて、共同体による経済運営は非効率的であるため、権威主義的な仕組みに取って代わられるリスクが大きい。

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