バンコクの「玄関駅」、廃止のはずが列車発着の謎 フアランポーン駅「お別れイベント」も開いたが

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ただ、政府としては、とにかくバンスーとフアランポーンの間の路線を廃止したいという思惑があった。

この区間には幹線道路と交わる踏切が複数あるが、渋滞対策のために自動車優先方式を採用しており、踏切で車ではなく「列車が待たされる」という珍妙な光景が近年は常態化していた。バンコク市内のSRT路線はいわばお荷物になっており、逆にバンスー以遠はレッドラインとして高架化されたことで命脈が保たれた格好だ。

結局、2021年11月のレッドライン開業と同時の廃止・移転は実施されなかったが、12月にフアランポーン駅の縮小(近郊普通列車のみ残置)がアナウンスされた。それによると、12月22日が同駅を発車する長距離列車の最終運行になるはずであった。SRTの公式予約サイトでも12月23日以降のフアランポーン発の予約ができなくなっており、もう古き良きターミナルから旅立つことはできないのかと、予想外の展開に落胆したものだ。

しかし、「最終列車」は出発しなかった。2022年1月中旬時点で、長距離列車も引き続きフアランポーン発着で運行されている。

実は「物理的に廃止できない」

いったいどうしたのか。これにはいくつかの理由がある。簡単に言ってしまうと、現時点では物理的にフアランポーン駅を廃止することはできないのである。

第1の理由は、フアランポーン駅に隣接して気動車のメンテナンス工場が存在することである。バンスーに駅機能を移転しても、長距離運行を終えた気動車をフアランポーンの工場まで回送しなければならず、バンスーで運転を打ち切ることはできない。これが、SRTがフアランポーン駅廃止に反対している最大の理由と推測される。

バンスー中央駅の高架からはフアランポーン方面にアプローチする線があり、在来線とも接続しているため、列車を回送すること自体は可能である。しかし、バンスー中央駅のすべての番線から接続しているわけでもなく、このアプローチ線は、東本線からの列車をバンスー中央駅に入線できるようにするのが本来の設置目的とみられている。

SRTで一般的な旧型客車の車内。日本の国鉄10系軽量客車に準じた造りで、窓も扉も全開で走る(筆者撮影)

第2に、レッドライン経由でバンスー中央駅に乗り入れできる車両が限られていることである。同駅は従来の客車用の低床ホームでなく電車用の高床ホームのため、従来車両は扉ステップの埋め込みを行うなどして乗り入れ対応を図っている。この改造を施した車両はかなり出そろっているようだが、まだ問題がある。

2016年から導入されているCRRC(中国中車長春)製の寝台客車。同形式が唯一のタンク式トイレを備える(筆者撮影)

バンスー中央駅は屋根で覆われており、換気に難がある。そのため、同駅開業に先立って直火調理を行っていた旧型客車の食堂車を全廃したほか、従来より排煙と騒音の少ない新しい発電エンジンを積んだ電源車を改造で順次導入しているが、まだ十分ではないようだ。

そして、避けて通れないのがトイレ問題だ。ほとんどの車両が垂れ流し式であることから、「黄害」が発生する可能性がある。コンクリート道床のレッドライン区間でトイレ使用を禁止する以外、抜本的対策がない。

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