バンコクの「玄関駅」、廃止のはずが列車発着の謎 フアランポーン駅「お別れイベント」も開いたが
ただ、レッドラインの都心側の始発駅はフアランポーン駅ではなく、同駅から北へ7kmほどのバンスー中央駅だ。ここにはSRTの広大な遊休地が広がっており、これを活用して東南アジア最大のターミナル駅である同駅が建設された。SRTの長距離列車とレッドラインのほか、将来的には高速鉄道、またエアポートレールリンクの乗り入れにも対応する準備工事がなされている。すべて合わせると、線路の数は20を超える。
また、近辺には、MRTバンスー駅、BTSモーチット駅、それにバスターミナルも点在しており、バンスーはバンコクの新たな交通結節点となる。さらに今後は「バンスー中央駅周辺総合開発計画」として、引き続きSRT遊休地を活用し、バンコクの副都心を目指すTOD開発が実行される予定である。
つまり、このレッドラインおよびバンスー中央駅の完成と引き換えにフアランポーン駅は営業を終了し、すべての列車の発着はバンスー中央駅に統一される予定であった。
2021年中の新駅移転はできず
タイ旅行好きや「海外鉄」仲間の中で、フアランポーン駅廃止・機能移転の話題は2021年のちょっとしたトピックだった。大方の予想は「2021年内にフアランポーン駅の移転はない」。筆者もそちらに1票を投じた。
というのも、2021年1月に運輸大臣が早ければ11月にフアランポーン駅を廃止すると発表した時点で、利用者のみならず、SRTまでもが寝耳に水と異議を唱えていたからだ。
当初の予定では、長距離列車はバンスー発着に移行するものの、フアランポーン駅周辺の通勤客への影響を考慮し、近郊普通列車のみは当面の間、同駅発着で残すとされていた。それが一転、完全廃止とされては、異論が噴出するのも当然だろう。現場の声をくみとらず、トップダウンで政府の役人が物事を進めようとするものの、最終的に「無理が通らず」実現できなかったという、この手の話は東南アジアではよくあることだ。
「公式発表通りに物事が進んだことのないタイで、新バンスー駅への移転はいつになるのか?」
フアランポーン駅の滞在延べ200時間超えを誇る「アジア鉄道旅行計画」の清水仁さんは、2019年に貸切列車運転のために訪れた同駅団体券事務所で、そんな率直な質問を同事務所責任者のA氏に尋ねたという。
それに対し、A氏は「3年後だな」と答えたそうだ。SRTの公式見解ではないものの、現場で働く肌感覚からすれば、2021年内の移転は不可能という判断だったのだろう。実際にそれが正解に近かった。
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