国内初、東京海上アセットで注目の役員人事 運用会社の社外取締役が担う重要な役割

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日本も社外取締役が運用を”監視”する時代に?

有力資産運用会社の一角である東京海上アセットマネジメントでは、野村アセットマネジメントで執行役員を務めた渡邊太門氏が10月1日付けで社外取締役に就任した。競合会社の元役員が社外取締役に就任するのはきわめて珍しいケースだ。しかも同社では、資産運用の実態が顧客利益に照らして妥当であるかどうかをチェックする役割を、渡邊氏に任せるという。この役割は株式会社の監査役に該当するものだ。

受託者責任(フィデューシャル・デューティ)原則の徹底が厳しく求められている米国の資産運用業界では、こうした形のチェック機能はすでに定着している。だが日本においては、これが初めてのケースと言える。今回の狙いについて、「主要なミューチュアルファンドでは、社外取締役による資産運用の妥当性チェックが行なわれている。当社も海外主要企業と同じレベルの厳格なチェックに基づく信頼性の土台を築く」と、東京海上アセットの大場昭義社長は語る。

他社も東京海上の取り組みを倣う?

当局も「独立性の適切な確保」を重視している(撮影:尾形文繁)

東京海上アセットの動きを契機に、今後、同様の対応が資産運用業界で拡大する可能性がありそうだ。金融庁は今年度、金融商品取引業者などに関する監督方針に、顧客ニーズに応える経営(資産運用の高度化)を掲げている。具体的には、資産運用会社に対して、「運用能力の向上と系列の販売会社との間での運用の独立性の適切な確保」を求めている。

こうした背景には、わが国の場合、資産運用会社が証券会社や銀行など販売会社を親会社とする子会社として活動していることが挙げられる。また、少なくとも過去には、「売りやすさ」や「販売手数料の高さ」など、親会社である販売会社のニーズが資産運用に反映されやすい面もあった。

金融庁の監督方針の観点からも、東京海上アセットのようにグループ外から独立性を確保できる社外取締役を招聘し、資産運用の適正チェックを導入することには意義があると言えるだろう。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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