子育て支援に乗じた官の肥大化を許すな

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特別会計創設の愚

さらに、「子ども・子育て勘定」(仮称)という特別会計の創設を盛り込んだことも大いに疑問だ。

現在、子育て関連の予算は、今年度から始まった子ども手当も含めて年6兆円強。子育て支援策を充実させようとすれば、今後、増えていくのは確実だ。財源は税金だけでなく、自治体や企業も資金を拠出している。これらの財源を一元化し、新たな資金負担も求めるため、特別会計をつくろうというわけだ。この特別会計から、子育て支援策の実施主体である自治体に対し、交付金を一括交付する仕組みである。

しかし、特別会計は、いわゆる“霞が関埋蔵金”の温床となったように、国会のチェックが甘く、官僚にとっては大きな利権となる。

企業に追加負担を求めるのも、乱暴な考え方だ。企業は公的負担として法人税や住民税、固定資産税に加え、厚生年金など社会保険料も負担している。子育て支援という使途に限定しても、すでに児童手当の拠出金や健康保険(出産育児一時金、出産手当金など)、雇用保険(育児休業基本給付金など)の事業主負担を支払っている。経産省の調査によると、日本企業の税と社会保険料を合わせた公的負担率は50%強で、国際的にかなり高い。法人税の実効税率が40%強と突出して高いのが主因だが、国際競争の観点から法人税の減税を議論しようというときに、新たな負担を求めるのは矛盾している。

子育てを親や家族だけでなく、社会全体で負担すべきという考え方は間違っていないだろう。であるなら、その財源は、わざわざ特別会計などつくらずに、国民全体で負担する消費税を中心に税金で賄うべきだ。

今回の改革案は、厚労省など霞が関の官僚から見れば、自治体に裁量権を持たせることで、住民からのクレームは自治体に対応させ、自らは特別会計という財源によって自治体をコントロールしようとする巧妙な仕組みなのだ。学習院大学の鈴木亘教授は、「厚労省は責任を地方に押し付けて責任逃れする一方、特別会計という財布を握って権限は手放そうとしない」と批判する。

少子化対策として、子育て支援策に一定のおカネを投入することはもちろん重要だ。だが、子育て支援策の議論を巧妙に利用した官僚の権益拡大は、絶対に許すべきではない。

(シニアライター:柿沼茂喜 =週刊東洋経済2010年9月4日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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