WTO敗訴「無視」の中国と、どうつきあうか 「レアアース国際紛争」敗北でも、国内論理を優先

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簡単に、主な報告とパネルディスカッションの模様を説明しよう。まずは豪州の著名なレアアース評論家・ダッドレー・キングスノース教授が、レアアース市場の動向について語った。氏によると、レアアースの需要は2013年の11.5万トンが、2020年には19万トン(65%増)に、一方の供給面では2013年の11万トンが2020年には20万トン(82%増)になるという予想を出してきた。需給は一部緩むものの、中国以外の資源の開発が進んでも、「中重希土類」の不足は残るだろう、との見方もあった。

また、中国がWTO裁定をどのようにとらえるかという問題に対しては「予測できない」との見方を示した。WTOの裁定を重要視して、「中国のレアアース業界での統合による国際化と、中国以外の資源国とのバランスが重要」と強調。だが、結局は「中国に振り回される構造から脱却できない」というのが、教授の結論である。

国家ぐるみで「価格操作」、WTOの敗訴は無意味か

実際、中国側の見方は明快だ。 多 く の 中 国 の 企 業 は「 W T O 敗 訴 の 影 響 は 全 く な い 」と の 見 方 が大勢を占める。その理由はWTOの敗訴に従ってEL(輸出ライセンス)制度や輸出税を廃止しても、所詮「国家支配」の中では、あまり変わらないということだ。

すなわち、中国では、資源税の導入が確実視されている。また希土類を扱う企業を統合すれば、逆により支配力が強化され、価格支配も総合的に対応できてしまうからだ。もしそうなれば、「国家ぐるみで価格操作をする」といっているような話で、国際貿易ルールも何もあったものではない。

中国「包頭希土類取引所」のGu Ming総経理の発表も、かなり私を不安に陥れた。内モンゴル自治区の包頭市で、レアアースの専門取引所の開設が秒読みに入ったというのだ。中国各地で、こうした取引所の設立が予定されていることを前に書いたが、実は内モンゴル自治区の包頭市は、世界最大の希土類鉱山である「パイユンオーボー」がある場所で、中国最大のレアアースの生産基地となっている。

ここに包頭希土類取引所がスタートすると、世界のレアアース市場のプライスリーダーとなる可能性さえある。そうすると、どうなるか。中国国政府の価格操作(マニュピーレーション)に加え、取引所による投機(スペキュレーション)が行われる懸念もなくはない。ただでさえ不安定なレアアース市場が、さらに秩序を失う危険性もあるのだ。

Gu Ming総経理は「市場価格の透明性」を盛んに強調していた。だが、わずか12万トン(ロンドンのLMEの銅市場は160万トンを扱う)しかないコモディティー取引のリーディング市場を目指す、というのだから恐れ入るとしか言いようがない。

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