ケインズ全集<第8巻>確率論 ジョン・メーナード・ケインズ著/佐藤隆三訳~清新な論理的道筋で類まれな思考力に鍛える
ケインズの裏のバイブル、とでも言うべき本がついに出た。名実ともに、20世紀最大の経済学者が著した、唯一にして無二の哲学書がこれである。
大学を卒業した若きケインズは、一官僚として働きはじめたものの、性に合わず2年間で退官。大学に職を得るべく、確率論の研究に没頭した。その成果が本書であるが、いま読み返しても、その論理的道筋の清新さに圧倒されてしまう。文体も嫉ましいほどに魅力的だ。
刊行されたのは1921年。ケインズはすでに、『インドの通貨と金融』や、ベストセラー『平和の経済的帰結』(パリ講和会議の講和条件に抗議したパンフレット)を著して、かなりの名声を博していた。
だが本書の校正刷りは、その7年前にさかのぼる。ケインズは二人の哲学者、ラッセルとヴィトゲンシュタインといっしょに、自著の草稿を検討したりもした。イギリスでは、55年ぶりに著された確率論の体系的書物、とケインズは自負していたようである。
ケインズ確率論の核心は、「推論と確率における相対的論理」というもの。ある命題が正しいと言えるためには、その命題を正しいとみなすための他の諸命題が、集合体(グループ)として存在しなければならない。その命題が属する集合体の論理にしたがって、命題の確率は判断されなければならない。