ケインズ全集<第8巻>確率論 ジョン・メーナード・ケインズ著/佐藤隆三訳~清新な論理的道筋で類まれな思考力に鍛える
たとえば、「pならばqである」という命題の真理性は、ある事実に即して、直接的に認識されるのではない。この命題の真理性は、「pは真である」とみなすための諸命題と、「qは真である」とみなすための諸命題のあいだの、包含的な関係によって決まってくる。
命題とは、事実ではなく、ある種の言説(ディスコース)である。ならば命題によって表現される確率も、「言説の世界」において決まるはずである。言説の世界に、確率の論理的問題を位置づけ直す。それがケインズの企てであった。
本書は、刊行の後、ラムジーによる徹底的な批判にさらされるが、決定的な打撃は、カール・ポパーの反証主義によって、帰納法の意義が一掃されてしまった点であろう。ケインズの確率論もまた、そのあおりを受けた。
だがマクロ経済政策の問題は、結局、確率の問題に戻ってくる。ケインズはのちに、本書の欠点を認めて方向転換をするが、本書の論理的な作業は、読者に対してよりも、ケインズ本人に類まれな思考力を与えたという。ケインズを継承するためには、確率論に拘泥しなければならない。思考の強度を鍛えるための、恐るべき一冊だ。
John Maynard Keyenes
1883~1946年。20世紀を代表する経済学者。政治、経済、文化の広範な分野にわたって多彩な活動を行う。『確率論』は20代の情熱を注ぎ込んだ事実上の処女作。改稿に改稿を重ねたうえで、1921年に500ページを超える大著として刊行された。
東洋経済新報社 1万2600円 548ページ
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