出稼ぎで日本に来る娼婦たちの厳しい現実 『娼婦たちから見た日本』を読む

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著者は家族のために身を売る娼婦を訪ね、日本を飛び出し、東南アジア各地を巡る。それは明治、大正という時代に娼婦という方法で家族を養った、「からゆきさん」と呼ばれる日本人娼婦の足跡を訪ねる巡礼の旅でもあった。

明治、大正時代に海外で体を売り家族を支えたからゆきさんたちは、家族を支えるとともに貴重な外貨を日本にもたらしてくれる存在でもあった。日露戦争時には多くのからゆきさんが膨大な額の献金を日本政府におこなっている。現在の金額で100万円もの献金をする女性も少なくなかったという。しかし、日露戦争に勝利した日本が大国への道を歩み続ける中で、次第に彼女たちの存在は国家の恥としてとらえられ醜業婦と揶揄され始める。

「国策に娼婦は殺された」

日本政府も各地に根を張り生きる日本人娼婦を撲滅する政策をとる。貧しい農村部の経済格差の問題を改善することなく断行されたこれらの政策により、娼婦たちの多くが生きるすべを奪われ、東南アジアの闇の中に融けて行った。本著の目次にもあるように「国策に娼婦は殺された」のである。

この現象は今でも変わらない。著者が取材を始めた10年以上前に存在していた国内の売春街の多くが、今現在では壊滅したか風前の灯なのだ。横浜の黄金町、三重県の渡鹿野島、沖縄の真栄原、栄町、吉原、これらの街は繰り返される浄化作戦で廃れてしまった。そして、この浄化作戦の多くに地元の婦人会や女性の人権を叫ぶ人々が加わっていることが何とも皮肉だ。

売春は女性の人権侵害であり、男が彼女たちを搾取していることにも間違いはない。しかし、彼女たちに対しなんらセーフティーネットを設けることなく、一方的な正義感から行われる「浄化」という行為は、彼女たちから生きる術を奪っている。渡日のため数百万円の借金を背負った外国人娼婦が強制送還されたならば、その先にどんな生活が待っているのだろうか。

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