意外と長い還暦からの8万時間超、迎える前の心得 「自立」と「貢献」を組み合わせて考えてみる

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「自分が一番カワイイ」「自分の気持ちを一番に考える生き方がステキ」「本当の自分に出逢うために自分探しの旅に出よう」。そんなキャッチフレーズが世の中にあふれました。今にして思えばずいぶん幼稚な考え方ですが、多くの日本人が、この風潮に酔いしれた。

その頃の自分が懐かしい人、そしていくぶん照れくさい思い出がある人も少なくないでしょう。

1982年には「フロム・エー」という求人誌がリクルートから創刊されました。今から振り返れば、これも象徴的な出来事です。求人をアルバイトや契約社員に特化し、「フリーター」という言葉を生み出した同誌。

「会社に就職するより自由な立場のアルバイトのほうが人生を謳歌できる」という当時の空気にうまく乗り、リクルートの媒体の中でも、非常に大きなビジネスに成長しました。

「自分の気持ち至上主義」は、こうして日本社会で確固たる市民権を獲得していきます。

「責任」と「義務」とは

その一方で、「自由」についての解釈は独善的になっていきました。「自分の気持ち至上主義」の延長線上に、結婚や子育てを「自分の自由を制限するもの」と考える男女が出現するのも至極当然のことだったのです。

もう一度、繰り返します。

「自分の気持ち至上主義」は、「自分の気持ちを満たすためには、なんでもしていい」という子どものような感覚です。先述した、幼児の抱く「全能感」とほとんど同じ。つまりバブル期には、「全能感」がずっと続くかのような幼児的な幻想が日本全体に蔓延したのです。

この蔓延によって、日本から失われてしまった大事な観念がある――私はそう考えています。それは、「自由には責任が伴うこと」、「権利には義務が伴うこと」。大人であれば、なくてはならない「責任」と「義務」の観念です。

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個人の自由を主張するならば、必ず同時に「責任」が発生します。

個人の権利を主張するならば、必ず同時に「義務」が発生します。

自由と責任、権利と義務は、コインの表裏の関係にあるのです。

そして責任と義務とは、見方を変えれば、他者に対してどれほど「貢献」しているか、という意味になります。

親に扶養されている子どもであっても、ある程度の年齢に達したら、「衣食住の保証」という自分に与えられた権利を享受する一方で、勉強を頑張ったり、家事を手伝ったりといった「家庭に対する貢献」が求められます。そのことは、世界中どこの国でも、どの時代でも普遍的に変わりません。

私が「自立」と「貢献」という言葉を組み合わせた背景には、この「自由と権利」と「責任と義務」の結びつきがあるのです。

定年を迎え、新たな人生のスタートを切ったときこそ、「自立貢献」の精神に向き合う必要があると私は考えています。

藤原 和博 教育改革実践家、「朝礼だけの学校」校長

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ふじはら かずひろ / Kazuhiro Fujihara

元杉並区立和田中学校校長。元リクルート社フェロー。『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済新報社)など著書多数。講演会は1200回、動員数20万人を超える人気講師としても活躍中。

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