意外と長い還暦からの8万時間超、迎える前の心得 「自立」と「貢献」を組み合わせて考えてみる

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そして、ある日。ついに、世界と自分が「分離」します。

「自分は全能だ」という思い込みが幻想で、「限界」があることを思い知るわけです。赤ん坊の頃は、親がつねに傍らにいてくれたからこそ思い通りになっていたのであって、自分一人では何も満足にできない。その当たり前の事実に気づき、戸惑い、葛藤が生まれ、どうにかしてその状況を打破しようと、もがき始めます。小学校低学年ぐらいの時点で、ほとんどの人がその葛藤を味わいます。

しかし、たまに、そのような葛藤を経験しないまま成人したのではないかと思わざるを得ないような人に出逢うことがあります。周囲の迷惑を顧みず、「世界の中心は自分だ」と思っている人はけっこういるもので、その人の中では幼児時代の「全能感」がいまだに続いているのです。

いわば、自立していないオトナです。

「自分の気持ち至上主義」の蔓延

ここまでヒトの成長過程を振り返りながら、「自立貢献」の糸口を説明してみました。ここからは、社会の変化に即して考えてみましょう。

『Japan as No.1(ジャパン・アズ・ナンバーワン)』という、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルの本が話題になったのは、1979年のことです。日本の経済力の強さを分析したこの書はアメリカと日本で大ベストセラーとなり、「日本がこれからの世界経済を牽引する」というイメージを、両国ならびに世界中に植え付けました。

「人生とは、足し算でも引き算でもなく、意外なもの同士を掛け合わせるかけ算だ」(藤原和博氏)

それから半世紀ほどが経とうとしていますが、その間の社会変化は、人々の価値観の変化も同時にもたらしました。

1980年代後半から1990年代初頭の「バブル」時代。日本は異常に景気の良い時代でしたよね。土地の値段や株価がうなぎのぼりに上昇し、企業は銀行からどんどんお金を借りて事業を拡大していきました。若者がローンを組んで高級車を購入したり、ブランド物を買い漁ったりするのもめずらしくなかった。円高を背景に海外旅行も増加の一途をたどり、「ジャパンマネー」という言葉が皮肉を込めて使われました。

当時の価値観をひと言で言えば、「消費は美徳」ということ。「お金が徳を決めた」と言っても過言ではありません。日本企業は自社製品を売り続けるために、広告戦略を駆使して人々の消費欲をかきたてました。その結果として蔓延したのが、「自分の気持ち至上主義」と呼ばれるライフスタイルです。

自分が好きなもの、欲しいものならば、他人が何と言おうと気にせず手に入れたい。そのような自分の「欲望」に忠実な生き方を、メディアが率先して奨励したのです。

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