日本の主要100社が答えた「経済安全保障」の本音 アンケートで見えた政府に求められる2つの均衡

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一方、経済安全保障のうえでの「政府への期待」に関する質問では、「政策の方向性の明示」(47.4%)、「企業利益確保を念頭においた政策決定」(18.6%)、「補助金による国内生産回帰の支援」(9.3%)、「補助金による中国以外(東南アジア等)への生産移転の支援」(5.2%)などが挙げられた。

「政策の方向性の明示」、なかでも米中の規制に対する日本の対応と規制対象がいずれも不透明であると企業は感じている。「経済安全保障担当大臣への期待」でも「米中の規制に対してどう対応すべきか、明確な日本の方針を出すこと」(造船)「米中ビジネスの両立が図れる政策決定と規制範囲の明確化」(機械)など、サプライチェーンの機微技術の安全保障の適用範囲をどこまでとするかという明確な“線引き”ができないことへのいら立ちが表明されている。このほか、日本の競争力確保や、自由貿易体制の推進に立脚した国際的なリーダーシップの発揮を期待する意見も多く見られた。

企業利益拡大との矛盾とどう向き合うか

経済安全保障強化と企業利益拡大は時に矛盾する。政府の経済安全保障措置が企業活動を過度に制約し、自由な企業活動を萎縮させないようにしなければならない。同時に、中国に進出している企業の15%近くが「補助金による国内生産回帰の支援」や「補助金による中国以外の国(東南アジア等)への生産移転の支援」を求めていることもまた事実である。経済安全保障政策上重要な原材料、素材、部品、製品、データ、サービスなどの輸入、投資、生産拠点、サプライチェーンの「多様化」と「多角化」を追求するのが望ましい。同時に、国産化万能、一国主義的対応ではなく、国際秩序とルールの維持・強化と同盟国・同志国との政策協調による骨太の経済安全保障戦略を志向するべきである。

中国の軍民融合と勢力圏拡大、米中対立、国際秩序の崩壊、経済ナショナリズムの台頭などの経済安全保障上の挑戦は中長期的課題として捉えざるをえない、と企業はみなしている。政府の効果的な経済安全保障政策を企業は求めている。

その際、米中対立の中での米中双方との安定した関係構築、安全保障と経済活動を両立させるイノベーションと産業政策が必要である。日本政府には、そうした「2つのバランス」を追求することが要請されている。日本の経済安全保障において死活的に重要な貿易・投資規制は、企業も自らを守るための当事者として受け入れる覚悟が求められている。ただ、その規制はお上の“取り締まり”であってはならない。企業は、政府がそうした国家安全保障上の死活的な範囲をいまなお明確にしていないと不安を覚えている。経済安全保障は国家安全保障と異なり、企業が主たるプレーヤーである。政府と企業のより真摯な対話とより密接な連携が不可欠である。

(富樫真理子/一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ API松本佐俣フェロー)

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