パンデミック時代になぜか流行する「ワルツ」の謎 時代の激流に翻弄される人々を惹きつける魅力

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ホーフブルク(ウィーン王宮)ではシュトラウス兄弟が宮廷舞踏会の指揮を担っていました。有名なウィーン会議(1814─15年)が開かれたのはこの少し前ですが、特にこの頃よりワルツは貴族から市民階級にまで広まり盛んに踊られ、社交の上でも欠かせぬ重要なものとなっていきました。「会議は踊る、されど進まず」という皮肉な名言を、ド・リーニュ侯爵は残しています。

現在でも冬の舞踏会の季節にはさまざまな催しが開かれ、「医師の舞踏会」「法律家の舞踏会」「ジャーナリストの舞踏会」「コーヒー協会の舞踏会」から「お菓子屋さん」や「煙突掃除屋さん」などなどの舞踏会まで行われています。それぞれに趣向を凝らしながら寒い季節を楽しんでいるウィーンの人々です。

ワルツの謎—人はなぜワルツに魅せられるのか 伊東信宏(大阪大学大学院教授)

コロナ禍を経験した今、パンデミック中にワルツが生まれた歴史に共感を覚えます。17世紀ウィーンでぺストが流行した時に、童謡「愛しのアウグスティン」が生まれました。単純で明るいワルツと同じ3拍子の曲ですが「ペストで皆いなくなった」という歌詞がつけられ、二重の意味が込められています。

ウィーン市内にあるペストの記念柱(撮影:シモン・クッパーシュミート)

コレラが流行した19世紀半ばはシュトラウス2世が活躍した時代でもありますが、彼のワルツにも喜びと悲しみが同居しています。20世紀前半のスペイン風邪流行時にはラヴェル「ラ・ヴァルス」が生まれました。人は絶望しきると、喜びの音楽にしか体が反応しなくなるのではないでしょうか。 

ではなぜワルツだったのでしょう? 男女が体を密着させながら回り続けることで陶酔感をもたらす、それがワルツの魅力であり本質です。民族舞踊には複雑な拍子が多いですが(東欧の5、7拍子、アフリカのポリリズムなど)、西洋音楽は単純化されていてリズムに乗りやすい。でもオーケストラの微妙な拍の駆け引きの中でふっと〝離陸〟して、魔術的な瞬間が訪れる。それでトランス状態になるんですね。

農村、または都市の場末で生まれたワルツは、次第にウィーンの中流階級をも虜にしてゆきます。一方でシェーンベルクが編曲した「皇帝円舞曲」はウィーンの場末の楽師たちが弾くゴツゴツした手触りも残しています。

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実は今秋、これらのワルツをテーマにしたコンサートを京都コンサートホールで企画・開催したばかりです。出発点はラヴェルの「ラ・ヴァルス」。19世紀のウィーン風ワルツを下敷きにした作品ですが、狂騒的な過去を懐かしむ気持ちとそれを批判する気持ちが共存しています。

ワルツの断片が魅力的に描かれていますが、途中から暴走して止まらなくなる。ラヴェルによってカモフラージュされたワルツの原像を明らかにするため、作曲家の三ツ石潤司氏に新作も委嘱しました。コロナ以前には戻れないとすれば、音楽は今後どうあるべきか。それは人と人、人と世界がどうつながり直すのか、という問題でもあるのです。

(取材・文/武田倫子、菅野恵理子)

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