パンデミック時代になぜか流行する「ワルツ」の謎 時代の激流に翻弄される人々を惹きつける魅力

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舞踏会の様子 ©Barbara Pálffy/fotopalffy
新年の幕開けとともに世界に流れるウィーン・フィルのニューイヤーコンサートの中継。美しいワルツの調べに人々は陶酔し、3拍子のリズムは寿ぎのムードを一層高めます。けれど、ワルツにはもう1つの顔があります。
ヨーロッパ社会にペストやコレラ、スペイン風邪が蔓延したパンデミックの時代、不穏な空気に覆われる中、熱に浮かされるかのようにワルツは流行してきました。ワルツには時代の激流に翻弄される人々を惹きつける何かが潜んでいるかのようです。明と暗が表裏一体となったワルツの底知れない魅力を訪ねます。
『家庭画報』2022年1月号より一部抜粋・再構成してお届けします。

ウィンナー・ワルツの音楽が生まれた時代背景

音楽の都で時代の寵児となったヨハン・シュトラウス2世。世界中に知られている名曲とその華麗な生涯を追い、ワルツのリズムに乗って、ゆかりの土地へ旅してみましょう。

ウィーンの街を歩けば、今でもどこからかワルツの調べが聴こえてきそうな気がします。街がどんなにモダンに変貌しようとも、この街に溶け込んでいるワルツの親しみやすさと、そのメロディの美しさに人々は和やかな気持ちになってくることでしょう。

新年の零時になるとシュテファン大聖堂の鐘の音が大きく響き、テレビやラジオからは「美しく青きドナウ」が流れ、人々は元旦を寿ぎます。第2の国歌とまでいわれているこの曲は、ブラームスが「自分の曲でないが残念だ」といったほど魅力的でした。朝のラジオを聞いていても、数々のワルツ曲が普通に耳に入ることが多く、人々の生活にさりげなく結びついています。

このようなウィンナー・ワルツの音楽が生まれた背景には、19世紀の大きく変化していく時代がありました。ヨーロッパの中枢に長きにわたって君臨してきたハプスブルク帝国。支配下の国々の民族運動も抜き差しならぬところまできて、一触即発の不穏な世情であり、底辺では第1次世界大戦に向かって時代が大きく動いていました。その崩壊前の最後の輝きのように、ウィーンではゆっくりと新しい芸術の華が開いたのです。

ウィンナー・ワルツは、父であるヨハン・シュトラウス1世とヨーゼフ・ランナーによって芸術的に高められ、それをさらに開花させた息子のヨハン・シュトラウス2世によって爆発的なヒットを飛ばしました。一世を風靡したヨハン・シュトラウス2世は、そのヴァイオリンを弾きながら指揮をする伊達男ぶりで女性たちを魅了し、19世紀の半ばには時代の寵児となったのです。

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