年間維持費24億円「新国立」の未来が不安すぎる訳 五輪後初の大規模イベント開催も運営は未知数

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高額な使用料も大きな課題の1つ。旧国立は客席をメインスタンドのみ使用する自治体などのスポーツ大会は50~100万円、入場料の10%と広告掲出料の支払いが派生する陸上の日本選手権などは300~400万円、サッカーJリーグは1000~1500万円、コンサートは実演日が3150万円ということになっていたが、新国立はそれをはるかに上回る高額設定が確実視されている。

JSCは「来年4月の本格稼働開始に向け、目下、使用料の設定を検討中です。天皇杯決勝など年末年始の大規模イベントについてはその都度、相手側と話し合って決めています」と説明していて、まだ具体的な金額は出していない。

ただ、複数のJリーグクラブの運営担当者が「2022年は新国立でホームゲームを開催したいけど、使用料が旧国立の倍くらいかかるから、よほど集客が見込める試合以外は難しい」とこぼしていたから、気軽には使えそうもない。サッカー界もコロナ禍で日本サッカー協会含めて経営が苦境に陥っている昨今だけに、利用頻度が上がらない恐れもないとは言えないのだ。

球技やコンサートなど網羅の「中途半端な施設」

新国立は陸上トラック存続の公算が高まっているため、世界陸上などの実施も視野に入ってくる。が、ここには補助競技場がなく、オリパラ開催時も聖徳記念絵画館付近にアップゾーンを臨時で設置していた。この状態だと第一種公認を受けられず、世界大会を開催するのは難しくなる。日本陸上競技連盟は2025年の世界陸上招致に乗り出しているが、このハードルをいかにしてクリアするのか。頭の痛い問題と言えそうだ。

新国立は今後どのように活用されるのか(写真:筆者撮影)

コンサートなどのイベント利用を考えても、屋根がないため、天候に左右されやすい。「陸上とサッカー・ラグビーなどの球技、コンサートなどあらゆるイベントを網羅しようとする中途半端な施設」を引き受ける民間事業者は本当にあるのか……。不安は拭えない。

スポーツ庁担当者が望むとおり、新国立は広く国民に愛される施設になるべき。そのために最善の方向性を模索することが肝要だ。まずはコンセッション方式の行方を慎重に見定めていくことから始めたい。

元川 悦子 サッカージャーナリスト

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もとかわ えつこ / Etsuko Motokawa

1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。

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