古代ローマに学ぶ効率的な「税システム」のあり方 「脱税」で崩壊したローマ帝国の歴史を紐解く

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古代ローマも、非常に効率的な税システムを持っていました。写真はローマ皇帝ディオクレティアヌスによって建てられたディオクレティアヌス宮殿(写真:World Image/PIXTA)
年末調整や確定申告など、税やお金に関することに一層気を引き締める時期が近づいています。税について知れば知るほど、世界情勢にも詳しくなり、そして過去から付いてくる歴史を振り返ってみたくなるはずでしょう。「税」と「歴史」は切っても切り離せない関係であり、税を学ぶことは歴史を学ぶことでもあります。世界で起きているほとんどのことが「税」「お金」「権力」で繰り広げられています。古代ローマから始まっている「税システム」の在り方から探ってみましょう。
元国税局調査官である大村大次郎氏の既刊『脱税の世界史』から一部抜粋・再構成し、お届けします。

古代ローマにも優れた税システムがあった

「古代ローマ」は地中海周辺から西ヨーロッパやアジア、アラブにまで勢力を伸ばした、いわずと知れた古代世界での超巨大国家です。

古代ローマが、現在のヨーロッパの礎をつくったのであり、古代ローマのつくった都市の多くはそのまま現在のヨーロッパの中枢都市になっています。

この古代ローマも、非常に効率的な税システムを持っていました。

古代ローマの共和政時代(紀元前509年から紀元前27年ごろ)には、ローマ市民はほとんど直接税を払っておらず、ローマの行政官は、無報酬でローマ市民が務めていました。

そして最低限の行政経費は、輸出入における関税や奴隷税で賄っていました。

奴隷は売買するときに2%から5%の売却税がかかり、奴隷が自由になるときには奴隷の価格の5%の税金が課せられていました。この奴隷税により、だいたいの行政経費は賄えていたのです。強いていえば、古代ローマには兵役の義務がありました。ローマ市民は、無報酬で1年間従軍する決まりになっており、武器なども自前で調達することになっていたのです。ローマの軍隊は、この徴兵制によって維持されていたのです。が、この兵役の義務もやがてなくなりました。

その代わりに「戦争税」が課せられるようになりました。

持っている財産の種類によって税率が変わる仕組みになっており、宝石や高価な衣装、豪華な馬車などの贅沢品には、最高10倍の税金が課せられたのです。また金持ちには、戦争時には、国家に融資する義務がありました。

これはあくまで「融資」だったので、ローマ軍が戦争に勝って、戦利品などがあれば、融資した額に応じて「配当」があったのです。

しかもローマ軍が勝ち進み、領地が拡大するとともに、この戦争税も廃止されました。都市国家ローマ(共和政ローマ)が誕生して350年ほどたった紀元前150年ごろまでに戦争税はすべて廃止されたとみられています。

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