グローバル・インバランス 歴史からの教訓 バリー・アイケングリーン著/畑瀬真理子・松林洋一訳 ~解決されていない構造問題の原因
評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト
アジア新興国が、ドルに対して過小評価された状態で自国通貨を安定させ、その結果生じる米国の経常赤字をファイナンスする。新興国は輸出を大幅に増やすことで、米国は高水準の消費を享受することで、高成長の持続が可能となる。米欧経済が住宅ブームに沸いていた頃、「グローバル・インバランスを拡大させるこうしたメカニズムこそが、世界経済の安定的な拡大を促す」という見解が頻繁に聞かれた。基軸通貨ドルを中心としていたため、戦後の通貨体制になぞらえ新ブレトンウッズ体制と呼ばれることもあった。
結局のところアジア新興国の資本輸出によってもたらされた低金利が、米欧の過剰消費や信用バブルを助長していただけで、バブル崩壊による世界同時不況とともに、グローバル・インバランスの大幅な調整が始まったことは周知の通りである。
本書は、金融危機発生の前に執筆されたもので、国際金融史の世界的権威が、新ブレトンウッズ体制は決して安定的な構造ではなく、グローバル・インバランスの調整は不可避であることを論じている。
その予測はすでに的中していると言えるのだが、グローバル・インバランスの原因の一つであった新興国側の通貨政策はあまり変わっていない。ドルに対し、人民元は割安な水準を維持し、変動相場制を採用している新興国もドル買い介入で自国通貨の増価を抑制している。構造問題の原因は必ずしも解決されておらず、新たな不均衡が生じる可能性がある。それだけ資本輸出側のアジア新興国で今後どのような調整が生じるのかを考えるうえで、大きなヒントを与えてくれる。
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