全身麻酔「世界初成功は江戸時代の日本人」の凄さ 命がけで開発に挑んだ「華岡青洲」夫婦の物語
青洲が薬を持ったまま逡巡していると、加恵がその横に布団を敷き出した。
「何をしてるの!」
於継が慌てると、加恵は穏やかな顔で言った。
「お義母さん、実験台には私がなります。私のほうが、もしもの時にでも助かる可能性があると思いますから」
「加恵!お前一体、何を……」
「そうですよ!あなたはこれからの将来が……」
「将来があるから、です。だから、私がやらないといけないんです。これからの医学を発展させるために、私を使ってください」
加恵は2人からどれだけ止められても、頑として布団から動かなかった。これまで、医師の妻として何をすべきか、ずっと考えていた答えがようやく出たと、加恵の決心は固かった。
「加恵さん……本当にあなたがやるの……」
心配そうな於継に、加恵はにっこり微笑んだ。
「大丈夫です。動物たちにはうまくいっているのですから。さあ、あなた。於勝さんのような思いを、もう誰にもさせないために」
加恵の強い思いに、青洲も心を動かされて意を決する。これまでの実験で、青洲は麻酔薬への自信を深めていた。
「わかった。少しでも異常があれば言ってくれ。絶対に死なせはしない」
「はい。私のことは心配しないでください」
加恵が、青洲から手渡された薬を一飲みした。しばらくすると、意識が遠のいていき、周囲の音が聞こえなくなっていった。
3日も眠っていた加恵
目を覚ますと、青洲と於継が自分の顔をのぞき込んでいる。於継は感極まって泣き出し、青洲がその手を握った。
「よし、目を覚ましたか!」
「私……少し眠っていましたか?」
「ああ、3日も眠っていたんだ。具合はどうだ」
「3日も……体調は何ともないわ」
「そうか、成功だ!」
これで麻酔を使った手術ができる、と3人は抱き合って喜んだ。とはいえ、患者に使うには、まだ実験データが不足している。母の於継も実験台に加わり、何度か実験が繰り返されることとなった。
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