全身麻酔「世界初成功は江戸時代の日本人」の凄さ 命がけで開発に挑んだ「華岡青洲」夫婦の物語
今や医療手術に欠かせない「麻酔薬」。それを開発し、世界で初めて全身麻酔の手術を行ったのが実は日本人医師であることをご存じだろうか。男の名前は華岡青洲。麻酔薬が開発される前の手術とは、耐えがたい痛みを伴う悲惨なものだった。命をかけて麻酔薬の開発にあたった青洲とその妻の物語を、東洋経済オンラインで「近代日本を創造したリアリスト 大久保利通の正体」を連載する真山知幸氏が解説する。
※本稿は真山氏の新著『泣ける日本史 教科書に残らないけど心に残る歴史』から一部抜粋、再構成したものです。
倒れそうなほど疲労困憊
「うぎゃあ!うぐぐ……痛いっ!痛い!」
手術の部屋から患者の悲鳴があがる。つい、さきほど血を流しながら、運ばれてきたばかりの患者だ。
「長くなるかしら……」
加恵は何もできないもどかしさを覚えながらも、手術が無事に終わることを祈るばかりだった。しばらくして、夫の華岡青洲(はなおか・せいしゅう、江戸時代後期の外科医)が部屋から出てきた。汗びっしょりで、今にも倒れそうなほど疲労困憊しており、うつむいたまま、居間へと入っていく。
「お疲れさまでした」
そう声をかけても、加恵が出したお茶も飲まずに、青洲はただ腕組みをして、目をつぶっている。
「手術はうまくいきませんでしたか」
青洲はようやく加恵がいることに気づいたような顔をして、「いや、手術はなんとかうまくいった」と言うと、少し頬を緩めたが、すぐに難しい顔をした。
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