中国経済は今後「共同富裕」の推進で衰退する 分配重視を掲げる岸田政権の進むべき道とは?

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共同富裕の政治スローガンを筆者なりに解釈すると、毛沢東氏が提唱したという経緯を踏まえれば、格差を是正して社会全体が豊かになることを目指すということだろう。

実際に、市場経済において利益を得た民間企業を狙い打ちにする最近の規制強化の動きには、資本主義経済を否定する共産主義に基づく権威主義的な習近平政権の意向が影響している側面がある。

資本主義経済において金を稼いだ強者から富を収奪して分配することで社会が良くなる、というのが共産主義の考えの根幹にあるが、習近平政権は、改革開放を進めて資本主義を取り入れた鄧小平氏の路線を完全に転換して、共産主義への復古を目指しているのかもしれない。

共同富裕のスローガンが強まる中で、中国においては、格差是正を前提として再分配政が今後弱まる可能性は低い。具体的な政策として、すでに、固定資産税(不動産税)の導入、そして企業や富裕層に対する寄付の要請などが行われている。

話題になっている新興不動産グループである恒大集団の債務不履行問題の背景には、住宅価格上昇が格差拡大をもたらしていることへの政治的な対応が行われたとも言える。コロナの徹底抑制により経済成長が減速する中で再分配政策を同時に強化すれば、2022年の中国経済はさらに減速するリスクが大きいと筆者は判断している。

日本が目指すべき所得格差是正策とは何か

中国における共同富裕政策が、共産主義への回帰を志向する政治的な動きと関係していると筆者は考えているが、日本においては、岸田文雄首相は自民党総裁選挙で「分配なくして成長なし」とのスローガンを掲げた。岸田政権が発足してからは、「成長と分配は両方とも重要」と路線をやや柔軟化させている。仮に、格差是正だけを目指す民間経済に介入する対応が強まれば、中国で弊害が大きくなっているのと同様に経済成長を低めるリスクが日本でも高まりかねない。

また、そもそも日本で問題になっている所得格差は、超富裕層の存在が格差を拡大させているアメリカとは大きく異なるだろう。日本では、1990年代後半から続いたデフレ経済によって、所得水準が低い労働者の所得水準が継続的に低下してきたことによって、所得格差が広がっていた側面が大きいと筆者は考えている。

この筆者の考えが妥当であれば、日本型の所得格差を是正するためには、2%インフレの早期実現と安定的な経済成長を実現させる安倍晋三・菅義偉政権から続いているマクロ安定化政策を徹底することが最も効果的な政策対応になるだろう。経済安定化政策を徹底することで、労働市場の逼迫を後押しできれば、労働市場全体の賃金水準を押し上げることができるので日本型の所得格差は縮小に向かう。

つまり、中国のような介入主義的な格差是正政策ではなく、資本主義を利用して経済成長を高める政策対応を行うことが、岸田政権が目指す所得格差縮小につながるのである。

必要な政策は、政府が成長産業を決めて公的部門を拡大させて増税することではなく、民間企業、家計の所得拡大のサポートを徹底することである。この政策を徹底することが、アメリカやヨーロッパなどの先進資本主義陣営に属する日本の大きな役割になると筆者は考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人個人に属するもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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