全国で勢力拡大する「シカ」増えると困る理由 天敵不在で無双状態、生態系破壊の原因にも

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ここまで見てきた通り、シカは様々な原因によって個体数を増やし、生息地を拡大しています。この問題を解決するにあたり忘れてはならないのは、シカは古来日本の自然環境の中に居場所を持つ野生動物であり、外来種問題のように、駆除することのみによって問題を解決することができないという点です。

現在の行われている取り組みとして、猟期のスポーツとしての狩猟以外に、生息数を抑えるための許可捕獲の実施(環境大臣・都道府県の許可があれば年中狩猟可能)、シカ柵を設置することでの農林業被害防止、生息地拡大の抑制などの措置が取られています。

防鹿策(写真:筆者撮影)

しかしながら、シカと共存する社会を実現するには、捕獲数が繁殖力を抑制するに至っていないなど、まだまだ課題が多いのが現状です。シカの生息数を、自然環境を損なわない適切な数に抑え、森林環境や一次産業への害を抑えつつ、適切な生息環境と規模にシカを位置づけていくことが重要です。

食べて貢献、絶品シカ肉料理

ここまで見てきたシカ問題。日常とかけ離れすぎて、縁遠い話と感じられる方も多いのではないかと思います。そこで、少しでもシカを身近に感じ、問題解決に貢献する手段として、シカ肉を食べてみてはいかがでしょうか?
私がガイドとして活動する富士山でも、シカ肉を販売する取り組みが進んでいます。

静岡県富士宮市にある野生動物解体処理施設「富士山麓ジビエ」では、地元猟師の方から買い上げたシカを、精肉し販売しています。販路は卸売業者、飲食店のほか、一般販売やふるさと納税の返礼品にもなっています。

ローストビーフならぬローストディア(写真:筆者撮影)

「許可捕獲等で獲られたシカが、野山に放棄されることなく、頂いた命をありがたく頂戴できるようにしたい。食材にするために育てられた畜産の肉では味わえない、自然の中で育った野生の味を多くの人に楽しんでもらいたい」(「富士山麓ジビエ」責任者の浅子智昭氏)。

しっかりと処理されたお肉は、臭みもなくとっても美味。シカ肉は赤身で脂肪分が少なく、鉄分豊富なヘルシー食材です。ジビエ産業の普及は、地域産業の活性化や、狩猟者の狩猟意欲の向上、そしてなにより捕獲した動物の命を無駄にしないことにつながります。このクリスマスは、シカ肉のジビエ料理を楽しんでみてはいかがでしょう?

次ページおまけ:もっとシカについて知りたい人に
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