またカナダのブルース原子力発電所は、世界で初めて、修繕のための資金調達にグリーンボンドを活用しようとしている。発電ユニット6基を改修するための数十億ドルの費用の一部が、今後10年間にわたりグリーン投資の対象となれば、原発の資金調達がグリーン投資で賄われる世界初のケースとなりうる。原子力発電をグリーン投資の対象とするかどうかは、議論が分かれるが、原子力も再エネと同様のグリーン電源と認められることになれば、原子力への投資が加速する可能性がある。
こうした事例は、各国がエネルギーの安定供給と脱炭素のバランスを取りながら原子力を再評価しつつある証左であり、ある種の原子力回帰の兆しとも呼べる。原子力の価値を世界が冷静に再評価しつつある中、日本の原子力の未来を不透明なままにすることは、その議論に入るチャンスさえも逃すことになる。
安全性の高い次世代原子力である「小型モジュール炉(SMR)」についても、中国やロシアが国家主導で開発・導入を進めて国際的な影響力を高めているのに対し、国の原子力政策が定まらない日本ではあくまで民間主体となり、出遅れている。
日本の脱炭素とエネルギー安全保障には、当面原子力は必要であり、政府はこの問題に今こそ向き合わなければならない。低炭素と安定供給の両方を満たす原子力のエネルギー安全保障上の価値を、冷静かつ丁寧に国民に伝え続け、国民の理解を得る努力をしなければならない。
国の総力を挙げて対応せよ
エネルギー安全保障では、“More Energy, Less Carbon, Affordable Cost.”というトレードオフの関係にあるものを達成することが求められる。「持たざる国」日本は、再エネはもちろん、LNG、石炭火力、原子力、水素、蓄電池など可能な限り多くの選択肢を持ち、その中で最適なバランスを選択し、脱炭素を進めながら、経済の根幹であるエネルギーの安定供給を維持しなければならない。
現行の国家安全保障戦略の策定には外務省と防衛省が中心的に関与し、エネルギー政策を直接管轄する経済産業省がその議論に不在であったが、本来、エネルギー政策は国の根幹であり、国の総力を挙げて官民、内外一体となり戦略的に取り組まなければならない問題である(福島第一原発事故は、伝統的な縦割り行政がエネルギー安全保障に支障をきたした事例とも言える)。
「エネルギー安全保障」は「経済安全保障」および「国家安全保障」の重要な一部を担っていることを認識し、内外一体となった中長期的な戦略が求められる。
(柴田なるみ/アジア・パシフィック・イニシアティブ 研究員)
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