日本のエネルギー安全保障に絶対欠かせない論点 脱炭素と安定供給を軸に多様な選択肢が必要だ

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岸田政権が国内生産を支援することを表明している蓄電池や水素技術を社会実装し、電気の「在庫」を持つことが可能になれば、再エネのリスクを補うことができるが、まさに現実の電力危機が迫る中では、石炭火力の選択肢ももちろん持っておかなければならないだろう。

また、原子力は代替安定電源として切り札となる可能性を持つ。脱炭素に向けてのエネルギーシフトは非常に長期の時間と多額な投資を必要する、産業構造の大転換となる。それ自体が困難な挑戦だが、さらにその過程で目先のエネルギー安全保障を損なうことになれば、結果的に長期的な取り組みの持続性も失われてしまうことになる。

物理的にも経済的にも不安定な再エネのリスクをどのように補うか、持たざる国である日本には、可能な限り多様な選択肢を維持することが必要である。

原子力活用は可能か─EUとカナダ

原子力は、発電時にCO2を排出しない。また燃料の備蓄性が高く、少量の燃料で大きなエネルギーを生産できるため、化石燃料を持たない日本にとって、エネルギー自給率の向上に寄与できる貴重なエネルギーである。

しかし、2011年の福島原発事故以後、原子力政策は一変した。近隣の住民の生活を大きく損なったことで原子力発電への国民の信頼は失われ、原子力発電の稼働率は大きく落ち込み、戻っていない。

一方で、低炭素かつ安定的な電源を大量に供給する手段は、原子力以外にはいまだ開発されていないのが現状である。EUのフォンデアライエン委員長は、深刻な欧州電力危機に対応するため、再生可能エネルギーに加えて「安定した供給源である原子力と、(…)もちろん天然ガスも必要」とし、原子力エネルギーと天然ガスも「クリーンエネルギー」と分類する方針を表明した。EUのグリーンタクソノミーにも天然ガスと原子力が追加される可能性がある。

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