中学受験目前「魔の月」に気をつけたい危険な兆候 安浪京子先生が語る「やりすぎ」はこう起こる

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例えば、暴言に関しては「もう受験なんてやめてしまえ!」にはじまり、否定的な言葉、怒り、理詰め、きつい口調など、感情にまかせたものがほとんどでした。2つ目の「手を上げてしまったとき」には、たたく、物を投げてしまうなど。3つ目の「強制」は、過酷なスケジュール管理をあげる方が多くいました。子どもが泣いても無理やり勉強させる、学校・塾・家の往復はすべて車で息つく間がない、塾の帰宅後も夜遅くまで勉強させる、などです。

でも、まず知っていただきたいのが、「自分は虐待をしているのでは? ひどい親なのでは?」と自己嫌悪に陥って自問自答している時点で、客観的に自分を見られているということです。自分を俯瞰できるならば、本当に深刻な虐待に至る可能性はかなり低いのではないでしょうか。

親だって聖人君子ではないですし、突発的に手が上がることだってあります。そんな自分に呆然とし、後に激しく後悔する……こうして、子どもへの関わり方に悩みながら、親も成長していくのだと思います。

子どもの顔から表情が消える、危ない親の関わり方

とはいえ、これまで中学受験専門の家庭教師として何百件というご家庭に入り、勉強を見させていただく中で、気になることもありました。

家庭教師として入る場合、「暴言」や「手を上げる」などの行為を目の前で見る機会はほとんどありません。ですが、第三者の目でみて、明らかに子どものキャパシティーを超えてしまうような関わり方をしていたり、子どもの顔から表情が消えていく様子をみることはたびたびありました。

そうなってしまう原因の1つが親による「徹底管理」です。たとえば、大手進学塾を複数、掛け持ちさせ、習い事も空手、バイオリン、英語とびっしりスケジュールが組まれていて週に1日も休みがない。送り迎えはすべて車で行い、食事は移動の合間に片手で食べられるおにぎり──といった具合です。ここで言いたいのは、勉強だけでなく、生活すべてを分刻みで管理しているという意味です。

ほかにも、「口出し」などがあります。たとえば、私からお子さんに質問しても、すべて親が先回りして答えてしまうケースです。それが常態化してしまうと、「親が答えてくれるから」と、子どもは考えることを放棄し、徹底的に待ちの姿勢になります。目もボーッとして反応が鈍く、勉強を教えても頭がまったく働かないということが起きてしまうのです。

明らかに「学習指導」をやりすぎというご家庭もあります。中学受験では、子どもがわからない問題を親が教える機会も多いですよね。それ自体は悪いことではないのですが、行き過ぎたご家庭では、たとえ夜中の2時3時になろうとも、課題がすべて終わるまでやらせます。親が右手に木の定規を持ち、間違えたりわからなかったらビシッとたたく、眠そうな目をしてもたたくということを恒常的にされている家庭もありました。おびえた状態で勉強させても鉛筆が進むはずはなく、委縮した状態で物事を深く考えるなど、そもそも無理です。

ほかにも、親が勝手に、子どもが家にいる空き時間をすべて個別指導などで埋めようとする「封じ込め」。徹底管理と似ていますが、本人すら当日のスケジュールを把握しておらず、先生が次々と家に訪れるようなケースです。ほかにも、勉強の面倒はすべて外注し、私は中学受験にはいっさい関わりませんという態度をとる「放置」。親の機嫌の乱高下がはげしく、気分によって子どもへの態度が変わる「カメレオン」などもあります。

こういう子どもたちすべてに共通するのは、次第に目に生気がなくなっていき、主体性を放棄するということです。意思をもって何かをやろうとしても、親によってすべて決められてしまう。意見を言っても聞く耳を持ってくれない、あるいはスルーされる──こんな事が続くと、「自分で何かを判断したり考えても無駄だ」という諦めの気持ちが強くなって当然です。

結果として、主体的に考えたり行動する力を失い、ひいては生きる力そのものが奪われてしまうという意味で、大変危険だなと感じます。

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