14万人不足の深刻「物流危機」克服する合理的秘策 発想の転換で危機をチャンスに変えられる

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「物流」に少し関心のある人なら、冒頭の質問に対して「物流クライシス」という言葉が頭に浮かんだかもしれない。

日本は「人口減少」と「超高齢化社会」という2つの深刻な構造的問題を抱えている。どの業種のどの企業にとっても、人手不足と高齢化は頭の痛い問題だ。中でも、物流業界はとくに深刻と言える。

物流の要の1つであるトラックのドライバーについて見ると、2020年度時点ですでに14万4058人不足し、2025年度には20万8436人不足、2028年度には27万8072人不足するとの予測がある(鉄道貨物協会、2019年)。ドライバーの高齢化のペースもほかの産業より速く進んでいる。

その一方で、EC市場の成長による宅配便取扱件数の増加などに牽引されて、トラックドライバーの需要はこの先も減らないと見込まれている。これらの状況から何がいえるか。

何も手を打たずに現状が続くと、近い将来、物流費が高騰し、モノがちゃんと届かなくなる日がやってくるということだ。

また、人手不足と高齢化の影響は、今、例に挙げたような消費者物流(宅配便など消費者を対象とする物流)だけでなく、調達物流(製造に必要な部品・資材を調達先から工場へ搬入する物流)、生産物流(工場で生産した製品を倉庫などへ搬入する社内物流)、販売物流(製品を物流センターから、卸、小売店などへ納品する物流)にも及ぶ。

もし、B2Bの物流が人手不足と高齢化の影響によって十分に機能を果たせなくなると、企業のサプライチェーンに甚大な影響が及ぶだろう。つまり、物流クライシスというのは、単に物流業界の問題ではなく、日本経済の浮沈に直結する問題と捉えるべきだ。

危機にも「よい面」がある

しかし何事にも表と裏があるように、危機にも「よい面」がある。こうした危機意識が高まったときは、変革を実行する絶好のタイミングなのだ。

企業の中にはさまざまな事業部門があるが、その中で「物流」は最も改革が遅れている分野であり、大企業であってもデータ化や自動化が立ち後れ、ベテラン社員のKKD(勘と経験と度胸)を頼りに旧態依然とした働き方が主流になっている。開発、製造、販売といった分野に比べると、物流だけひと昔前の働き方を続けているイメージだ。

企業は物流部門の改革の必要性を認識しているものの、優先順位はかなり低い(開発、製造、販売の課題解決のほうが先)。もちろん企業によって「物流」の位置づけは異なるが、ほとんどの企業において物流部門は「傍流」で、部門長に役員クラスが就くこともなく、改革の機運が盛り上がりにくい面があった。

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