嘘を通した母に殺された少女が残した悲しい教訓 いじめ虐待調査医の感じた一抹の不安が的中した
私は、校長先生の話を大学病院の医師たちに伝え、不用意に検査をしないほうがいいと訴えた。
私は何も、患者の親の意見は役に立たないと言いたいわけではない。
でも、なぜかそのときは、母親の言い分を鵜吞みにするのが正しいことだと思えなかった。
とはいえ、私の言葉を真剣に聞いてくれる人はいなかった。あのとき感じた深い孤独は、いまだに忘れられない。もはや、私にはどうすることもできなかった。
その後、少女はさまざまな専門医のところに連れていかれ、全身をくまなく調べられた。
その子がとてつもない恐怖を感じていたのは間違いない。
しかし、結果的に少女の身体にはなんの異常も見つからなかった。私は憤慨したが、その子の母親を呼び出して話をするわけにはいかなかった。当時は、私たちが直接やりとりするのは医療従事者と学校関係者だけで、患者や患者の家族に接触することは許されていなかった。
小学校が長期休みに入る少し前、「あの子が心臓の手術を受けることになりました」と少女の担任から連絡があった。
私は啞然としたが、手術の前に入院させてもらえると聞いたので、少しほっとした。入院して検査を受ければ、何も異常がないことがわかるはずだ。
休みが終わったあと、少女の担任からこんな連絡があった。「結局……心臓の手術の件はなかったことになりました」
それを機に、状況は少しずつ好転していった。少女が病院に行く回数はみるみる減っていき、あるときついに、少女の母親は教師たちにこう言った。
「どうやら、娘はもう心配いらないみたいです」
私は安堵の息をついたが……頭の片隅には一抹の不安が残っていた。
信じがたい知らせ
まもなく、学校からふたたび電話があり、信じがたい話をされた。例の少女が亡くなったという知らせだった。
亡くなった日、その子は半ばパニックになりながら祖父に電話をかけ、「助けて! お母さんがすごく怒ってるの!」と言ったようだ。
それを聞いた祖父はすぐに少女のもとに駆けつけたが、手遅れだった。その子は階段の下で冷たくなって倒れていた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら