嘘を通した母に殺された少女が残した悲しい教訓 いじめ虐待調査医の感じた一抹の不安が的中した

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少女の死を聞いてから初めて、私は数週間前に起こった別の事件のことを知った。その子の母親が飼っていた何匹かの犬が、小屋のなかでみんな死んでいたのだ。近所の人はみなそのことを知っていて、一家に同情を寄せていた。

もっと早くその事件のことを知っていたら、私はすぐに警戒していたはずだ。

なにしろ……動物虐待と児童虐待には密接な関係があるのだから。

のちの裁判で、その母親が「代理ミュンヒハウゼン症候群」だったことが明かされた。娘が病気だという話は、周囲の気を引くための噓だったのだ。それが、飼い犬に毒を盛り、自分の娘を手にかけた女の正体だった。

怪しいと感じたら調査を怠らない

私はこれからもあの少女のことを忘れないだろう。あの子にまつわる一連のできごとは、いじめ虐待調査医としての私を形づくることになった。

あのとき、私にはもっとできることがあったのだろうか? あの子を救う方法もあったのだろうか? いまの私たちなら、あの悲劇を防げるのだろうか? 

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私には何ひとつわからない。実際、不信感を覚えるたびにそれを伝えようとしたが、誰ひとりとしてとりあってはくれなかったのだから。

「私たちは、警戒を怠らず、断固たる態度で臨み、少しでも怪しいと思ったら徹底的に調査しなければならない」

これは、あの少女が残してくれた悲しい教訓だ。

私たちがあの母親の噓を見抜けなかったために、なんの罪もない少女とペットの命が失われてしまった。

そのことを思うと、いまでも心が痛む。

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