テニス選手に告発された中国前副首相の「過去」 「目立たず、波風立てず」で共産党幹部に出世
香港に隣接する深圳市のトップを務めたこともある。鄧小平が経済改革の目玉として宣伝した都市だ。鄧の後継者・江沢民の寵愛を受けた張は、2000年代初頭には港や工場が集積する山東省の長に昇格し、2007年に行政区分上、省と同格に位置づけられる天津市のトップに就任。2012年に中央の最高指導部メンバーに選出され、続いて国務院常務副総理(第1副首相)となった。
「天津の党員、役人、市民の皆さんが、引き続き私を厳しく監視し続けてくれることを期待する」。2012年、天津を出発して北京に向かう張は、このように語っている。
大規模プロジェクトで豊富な管理経験を持つ実務型の張は、実績づくりを急ぐ習にとっても安心して仕事を任せられる存在だった。張は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との石油交渉のほか、習肝いりの「一帯一路」構想の推進を担い、2022年北京冬季オリンピックの準備も監督した。
2016年には、北京を訪れた国際オリンピック委員会(IOC)の会長トーマス・バッハとも会談している。告発後に消息不明となっていた彭の無事をテレビ電話で確認したと11月21日に発表し、騒動の鎮静化に動いたのは、そのバッハだった。
引退した政治家を待ち受けているもの
習近平体制となってからは、官僚の下半身スキャンダルが時折、国営メディアで赤裸々に報じられることもあったが、これには党の浄化に対する習の本気度を示す狙いが込められていた。
だが習は今、党上層部の汚点となるスキャンダルをかき消すことに重きを置いているように見える。彭の投稿に関する言及は、中国国内のインターネット上からは、ほぼ完全に削除されている。国営メディアでは張に関する報道はなく、彭の告発の真偽について疑問が投げかけられることもない。
2018年に引退した張は中国政界の慣例どおり表舞台から姿を消した。引退した政治家には高品質の医療、住宅などさまざまな恩典が与えられるのが普通だが、同時に監視の対象にもなる。
中国共産党を研究するアメリカのクレアモント・マッケナ大学教授ミンシン・ペイ(政治学)によると、「引退した政治家の動静は党の組織部門に報告される」。
彭は投稿の中で、張との間で最近いさかいがあったとほのめかし、張がまたしても「姿を消した」と書いた。だが、こうした告発では張の圧倒的な地位はほとんど揺らがないだろう、とも記している。
「あなたの知性と機知をもってすれば、これを否定することも、私に責任をなすりつけることもできるでしょう。あるいは、ただ(何事もなかったかのように)クールに受け流すのかもしれませんね」 =敬称略=
(執筆:Chris Buckley記者、Steven Lee Myers記者)
(C)2021 The New York Times News Company
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