日本好調、海外変調で今後の株価はどうなるのか FRBの金融政策シナリオ「激変」で起きること

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自動車生産回復の背景にあるのは自動車部品工場が集積する東南アジア地域における経済活動の正常化。夏場はコロナ感染状況の悪化によって工場稼働率は低下を強いられたものの、足もとで感染状況は安定し、部品供給は正常化に向かっている。東南アジア諸国の経済指標に目を向けるとタイ、マレーシア、ベトナムの製造業PMIはそろって50を回復した。半導体不足はなお残存するものの、供給制約は最悪期を脱出した可能性が高く、鉱工業生産は回復の可能性が高まっていると判断される。

他方、FRBの金融引き締めによって日本株上昇が阻害されるリスクは高まっていると判断せざるを得ない。筆者は2022年6月の資産購入終了から半年程度の時間を置いて2022年終盤に初回利上げを実施するという引き締めスケジュールを想定してきたが、最近のFRB高官の発言は急速にタカ派色を強めており、今やテーパリングの加速(資産購入の早期終了)すら規定路線になりつつある。

11月FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で決定された毎月1200億ドルの資産購入額を8回にわたって減額し2022年6月に資産購入を終了するという当初計画は早くも修正の機運が高まり、それに伴って利上げ開始時期も前倒しの可能性が高まっている。

なぜ、テーパリングの加速を支持する声が相次ぐのか

11月19日にはリチャード・クラリダ副議長(※2022年1月末に任期満了)とクリストファー・ウォーラー理事がテーパリングの加速に言及した。クラリダ副議長は労働市場の回復を評価したうえで「テーパリングのペース加速を巡り討議することが極めて適切となる可能性がある」と発言。またウォーラー理事は同じく経済全般の改善を評価したうえで「今後のデータに基づき、より早いテーパリングに移行する必要があるかもしれないと考えている」として、そのうえで「来年1月にテーパリングのペースを倍増させ、4月に完了させた上で、4~6月期に利上げに着手する」案に賛意を示した。

また11月22日にはラファエル・ボスティック・アトランタ連銀総裁が「テーパリングのペースについて話し合い、テーパリングの加速に対しオープンであることが適切だと私は確信している」との見解を示した。そして決定打はハト派の代表格であるメアリー・デイリー・サンフランシスコ連銀総裁のインタビュー(24日)。「これまでの状況が続けば、私はテーパリングのペース加速を全面的に支持するだろう」、「消費者物価指数(CPI)の月間の数字が再び高進した。これが続けば、これらはテーパリングの加速が必要なようだと示唆するものになる」などと発言。その上で「来年後半に1回、または2回の利上げが行われたとしても驚きはしない」として、2022年の「利上げ開始派」に転向した。これら発言から判断すると、FOMC内部ではテーパリングの加速は規定路線になっている可能性が高い。

12月FOMC(14~15日)では、テーパリング加速が決定され、資産購入が3月にも終了する計画が示される可能性がある。また2022年に複数回の利上げ計画が示されるだろう。9月時点のドットチャートは2022年に「0.5回」の利上げがあることを示唆していたが、その後発表された雇用、物価データの多くが利上げを正当化する結果だったことを踏まえ、タカ派な主張を展開するFRB高官は増加しており、それがドットチャートに反映されるとみられる。

NY連銀が取りまとめている調査によれば9月の段階では2023年央の利上げ開始を予想する向きが支配的だったが、いまや2022年3月に利上げがあっても不思議ではない状況にある。株式市場に広がっていた「金融緩和が長く続く安心感」は急速に薄れている。

上述のように最近の国内景気回復は日本株上昇を正当化するが、FRBの金融政策がもたらす世界的株安には注意したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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