COP26での「3つの成果」日本は今後どう生かすか 1.5度目標に強化、石炭火力削減を明記した意義

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中でも問題であったのは、排出削減量の二重計上(ダブルカウンティング)を防ぐことであった。6条は基本的にオフセット(相殺)の仕組みであるため、削減を進めるために最も重要なことは、削減プロジェクトを実施するホスト国と、支援するドナー国との間での二重計上が行われないようにすることにある。そうでないと地球全体で見た場合に排出量がむしろ増えてしまいかねない。そのために、削減量をそれぞれの国の間で調整する仕組み(「相当調整」と呼ばれる)が必要となる。

2国間クレジットに関するパリ協定の6条2項には「相当調整をすること」が明記されている一方、国連主導のクレジットの規定である6条4項には明示的には「相当調整」という文言がないことを悪用して、ブラジルが6条4項では二重計上をしていいという主張を繰り広げてきた。これを許すと、6条によってむしろ世界の削減に大きな抜け穴が出来てしまうことになるので、島嶼国をはじめとした途上国や先進国は強く反対してきた。

交渉中にはさまざまな妥協案が出された。たとえば「国別目標に含まれない部門からの削減量の場合には相当調整を適用しない」「削減プロジェクトのホスト国が認証したクレジット以外には相当調整を適用しない」などといった提案がなされた。いずれも大きな抜け穴となる可能性があり、議論は激しく紛糾した。結果としてこれらの妥協案は消えて、何とか二重計上を防ぐことを前提とする仕組みが立ち上がった。

「ゾンビクレジット」の問題

6条の交渉で二重計上やゾンビクレジット持越しを主張したブラジル(写真:WWFジャパン)

もう1つの大きな問題であったのが、パリ協定に先立つ京都議定書時代の、使われなかった古い削減クレジット(「ゾンビクレジット」と呼ばれていた)を、パリ協定に持ち越したい、というブラジル、インド、中国の強い要求だった。これらの国々では大量の京都議定書クレジットが残っており、それらについてパリ協定の削減目標への算入を認めてしまうと、2020年以降のパリ協定における各国の削減量が事実上減ってしまう。そのため多くの国が強く反対してきた。

最終的には2013年以降に登録されたゾンビクレジットのみ使ってよい、ということで妥協が図られた。研究報告によると2013年以降登録のクレジットはCO2換算でおおよそ3億3000万トンにとどまるということで、望ましくはないが、1回目の国別目標達成に限り使えるという条件も付けられて、パリ協定への影響をなるべく抑える方向で妥協が図られた。

そのほか、パリ協定6条4項でクレジット取引の利益の5%が温暖化の影響に脆弱な国々が気候変動に適応するための支援に回されることになった。これは京都議定書時代の仕組みを踏襲したものだ。当時の2%から引き上げられたことは評価できるが、途上国側が強く要求していた6条2項ではこの仕組みの導入は見送られた。

これらのぎりぎりの妥協で何とか二重計上を防ぎ、実効力のある市場メカニズムの仕組みが立ち上がり、長引いてきたパリ協定の残されたルールもすべて合意されて、パリ協定は完成した。

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