開戦の日に読みたい「戦時下東京の絶望的な日常」 驚愕!「80年近く前の日記が今の日本と酷似」

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清沢の疑問は76年を経て現実味を帯び始めている。我々は清沢の疑問にきちんと答えられるだろうか。

清沢の『暗黒日記』には戦争をする国家の不条理とそれを支えるメディアの不条理、そして国民自身の不条理が、市井の暮らしの様子と共に描かれている。そこに記されている社会があまりにも今日の世相に似ていることに驚く。

清沢洌の『暗黒日記』は若い人にこそ読んでもらいたい。戦争に近づかないために、こういう時代があったことを知ってほしい。だから私が編集・解説した『現代語訳 暗黒日記』は、研究者ではなく普通の人が読めるよう、あえて現代の言葉に直して清沢の日記を編纂した。これがいま『暗黒日記』を世に問う意義である。

日本は事実に目を背けて戦いを挑んだ

清沢が日記を書き始めた1942(昭和17)年の12月9日は、開戦から1年後の記念日の翌日である。この記述を読むと、開戦から1年後の世相がうかがわれる。

昭和十七年十二月九日(水) 
 近頃のことを書き残したい気持から、また日記を書く。
 昨日は大東亜戦争記念日だった。ラジオは朝の賀屋興宣大蔵大臣の放送に始まり、まるで感情的叫びであった。夕方、僕は聞かなかったが、米国は鬼畜で英国は悪魔でといった放送で、家人でさえもラジオを切ったそうだ。
こうした感情に訴えなければ戦争は完遂できないのか。奥村喜和男情報局次長が先頃、米英に敵愾心を持てと次官会議で提議した。そのあらわれだ。

政府高官が感情に訴える背景には、東條英機首相の開戦時の演説が思い浮かぶ。

「只今宣戦の御詔勅が渙発(かんぱつ)せられました」で始まる開戦演説で、東條首相は「およそ勝利の要訣(ようけつ)は必勝の信念を堅持することであります。建国二千六百年、我等はいまだかつて戦いに敗れたことを知りません」と「必勝の信念」「不敗の歴史」を力説した。そしてこれこそが「いかなる強敵をも破砕する」確信を生むと断言している。

日本人は、たしかにそれまで敗戦を知らなかった。さらには日本全土が戦場となり攻撃された経験もなかった。

そうして自己を過大評価し、アメリカが自分たちよりもはるかに強大な国力だという事実には目を伏せ、「必勝の信念」を心中に日本は戦いに挑んだ。

清沢の日記にはこういう記述もある。

昭和十九年三月十日(金)
 戦争の前には、米国人は海軍兵士にはなれない。彼らは逃げる。また潜水艦などには、苦しくて到底乗れないと言った。次には米国の計画は、「天文学的数字で――」と計画倒れになることをあざけった。
昭和十九年十一月十八日(土)
 世田谷区役所で講演。東京都からの依頼だ。都の役人の話では、やはり戦争の前途に楽観的だ。軍人達が「大丈夫だ」と言っているのを、そのまま信じているのだ。国民の九十%までは戦争が勝つと考えている。
次ページ国民に我慢を強いるが…
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