竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」 ベーシックインカムは究極のセーフティーネット

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今回のコロナ禍でも、困り方は多様です。例えば今回、家賃が払えなくて困っている人のために家賃補助をした。じゃあ無理して不動産を買って困っている人はどうなんだ、不動産を買わないで借りていたほうが有利じゃないかとなる。

状況は違っても、個人の基本的な生活を同じように救済するわけですから、きわめてフェアなやり方だと思いますよ。

――番組では、月7万円という具体的な額も出されていました。

あれは日本銀行審議委員も務めた原田泰さんの試算で、今の年金や生活保護の予算を小さくできるので、月7万円程度であれば大きな財政負担にならずに実施できるという、1つの基準として出している額です。

ほかの税金を上げて歳入を増やせばもっと高額にできるし、そこまで必要ないということであればもっと少なくもできる。それは国民の政治的判断、チョイスですから。

「年金や生活保護がなくなる」は悪意の議論

こう言うとまた「年金がなくなる」「生活保護がなくなる」と言われるんですが、それは悪意の議論で、そんなこと一言も言っていないですよ。

たけなか・へいぞう/1951年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1973年日本開発銀行入行。慶応大学総合政策学部教授などを経て、小泉純一郎政権で経済財政担当相、金融担当相などを歴任(撮影:尾形文繁)

現在のような生活保護の制度はなくなる。でも生活保護の一部、例えば疾病のある方の医療費を無料にするといったことはまた別の救済措置が必要で、そんなに単純な議論ではないです。

今はうっぷんを持っている人が、他人の悪口を言って溜飲を下げてそれで終わり。一部のネットやメディアがまたそれをあおる。これは何も生み出さないですよ。こうしたら日本全体がよくなる、自分の生活がよくなる。そういう建設的な議論にならなくなっているのが、私が今この社会で一番心配していることです。

――では、ベーシックインカムを導入した場合、生活保護の何を残し、何をなくすかについては、どんな構想をお持ちですか。

それは制度設計の話です。私はどの制度設計がよいとは言っていません。さまざまな考え方があるから、その議論を始めたらいいと言っているわけです。

ただ、まず日本に絶対的貧困層がどのぐらいいるのかが正確にはわからない。第1次安倍内閣のとき、官房長官の塩崎(恭久)さんに調べましょうとだいぶ申し上げたんですが、政権が1年で終わって実現できなかった。

貧困にはいくつかの要因があります。働きたいが仕事がない。これに必要なのは雇用対策です。働いているが給料が安い。これは最低賃金。働きたいが体が悪い。これは医療の問題です。それぞれの問題に該当する人に対して、ベーシックインカムで賄いきれない部分に別途どんな措置をするのか、総合的な議論をしましょうと。

これは非常に難しい議論ですよ。(ベーシックインカムが)高すぎれば働くインセンティブがなくなるし、低すぎるとセーフティーネットにならない。5年ほど前にスイスで国民投票がありましたが、月額28万円で、高すぎると反対され否決されました。日本でも「私の政党の支給額はこのぐらい、その代わり税金はこのぐらい」というチョイスを各政党が競って、国民に選んでもらえばいいんです。

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