マクドナルド、コナカの“偽装管理職”という闇 「消える残業代」にメス
自由裁量の権限がなく、処遇も変わらないのに、「管理職」との肩書きが付されるだけで労働時間規制が除外され残業代が消える「偽装管理職」。この実態へのメスが相次いで入った。
日本マクドナルドの店長が残業代を支払う必要のない労働基準法の「管理監督者」かどうかが争われた裁判で、東京地裁は1月28日、労働実態から管理監督者とはいえないとして、過去2年分の不払い残業代など約755万円の支払いを命じた。同社の店長は全国で約1700人いることに加え、その他の大手外食、小売りチェーンの大半が同様の労務管理を行っているため波及度は大きく、高い注目を集めた。同社は判決翌日に控訴した。
今回の裁判所の判断は、決して特別なものではない。「従来の判例法理と行政通達の考え方を踏襲した、適切、妥当な判断。実際、これまで管理監督者に当たるかどうかが争われた裁判約30件のほとんどで労働者側が勝利している」(原告側弁護団)。
判例法理では管理監督者か否かは名称にとらわれず、権限、勤務態様、処遇から、経営者と一体的な立場といえるかによって判断される。今回の判決でも、店長には社員採用の権限がない、営業時間やメニューを決める権限がない、処遇も評価によっては下位職位の平均年収より低額である、などから管理監督者とは認められなかった。
この論点のリーディングケースとされる「東建ジオテック事件」では、次長、課長、課長待遇調査役等の肩書きを有していても労働実態からは管理監督者とは認められないとして、不払い残業代等の支払いを命じている。
マクドナルド判決の数日前の1月22日、紳士服チェーンのコナカの元店長が労働審判で過去2年分の残業代の支払いを求めていた問題で、同社は解決金600万円を支払う協定を元店長らと結んだ。同社も店長は管理監督者だとしていたが、07年7月に労基署から指導を受け、店長にも残業代を支払うように変更。それでも過去分の支払いには応じなかったため係争となっていた。
本来は不要な時間管理が横行
ただし、争いになったり、労基署の指導が行われたりしないかぎり、管理監督者に当たるかは企業の自主判断に委ねられているため、明らかに「偽装管理職」であっても企業風土によっては正当化されかねない。実際、マック訴訟の原告である現役店長の高野廣志さん(46)も1カ月の時間外、休日労働時間が実に137時間に及び、63日連続勤務を余儀なくされた結果、症候性脳梗塞を発症。提訴は過労死の危険に直面しての思い余っての決断だった。「家族と向き合い、人間らしい生活が送れるような働き方を求めて起こした裁判」(高野さん)。
この「偽装管理職」は、かねて問題視されてきた。厚生労働省の委託研究として日本労務研究会の「管理監督者の実態に関する調査研究委員会」(座長・島田陽一早大教授)が05年に行った調査では、「管理監督者」の8割近くに、本来不要なはずである労働時間管理がされており、5割超で勤怠が制裁・不利益の対象とされることが明らかとなった。そうした実態から課長クラス、部下なしスタッフ職を管理監督者に含めるのは適切ではないと結論づける。
舛添要一厚生労働相は記者会見で「判決はしっかり受け止める」としつつも、多様な働き方も重視すべきとの見解を示した。だが、管理監督者かどうかよりもまず問題とすべきは、本来最低基準である1日8時間、週40時間という労働基準法の規定を大きく超える長時間労働が蔓延している現実ではないだろうか。
(週刊東洋経済編集部)
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